第10話 取り戻した名前
銀鷺商会の看板から、私の名が消えた。
人足が板を外すところを、私は通りの向こうから見た。それだけで港に広まった噂が消えるわけではない。だが、少なくとも店の入口は、本来の姿に戻る。
商人組合の掲示板には、北風屋とヴァルムント家に偽の保証や染料の申告への責任がないことが記された。被害を受けた取引先にも知らせが送られる。
北風屋では、セシリアが取引をやり直していた。
買い控えていた商人の店を一軒ずつ訪ね、毛織物を見せ、港の判断を説明する。私も同行したが、値段の話が始まると口を挟まない。
「旦那様、その顔をなさらないでください」
店を出てから、セシリアに言われた。
「どんな顔だ」
「値を下げてでも買っていただきたい顔です」
「そんなに分かるか」
「すぐに」
結局、毛織物は彼女が決めた値で売れた。港で仕入れた塩を荷車に積むと、北風屋の旅はまた商売らしくなった。
夜には四人で海辺の店に入り、温かい魚料理を食べた。ルカはフィーへの土産を選び、ミラは私が食事の間ずっと事件の書類を見ていないことを確かめていた。
リーゼルの地図帳を開く。
海の色。波の音。潮の匂い。その下に、今夜食べた魚の名を書いた。
ルーヴェンを思い出すとき、偽造された署名だけが浮かぶようにはしたくなかった。
監察官から受け取った報告の写しには、銀鷺商会の各地の支店から王都へ送られる金の記録もあった。受け取る側には、王国の財務を扱う者たちと取引のある両替商が含まれている。
その金が何のためのものか、まだ分からない。財務卿ギデオンへつながると決めるには、証拠が足りなかった。
私は必要な写しを王都へ送った。
翌朝、港を発つ前にもう一度海へ行く。ルカたちは荷の積み込みを終えてから来るというので、私は先に波止場を歩いた。
遠くで帆が開く。
私の名は、他人が作った書類にも、店の看板にも使われた。それを取り戻せたのは、名乗ったからだけではない。セシリアの帳簿があり、ミラの記録があり、ルカが聞いた人々の話があった。ユリアンも、自分の判断で屋敷の記録を送ってくれた。
私は杖をつき、波止場の端で振り返った。
北風屋の荷馬車が見える。セシリアが帳簿を抱え、ルカが手綱を取り、ミラが私を探してこちらを向いた。
手を上げると、三人が歩いてくる。
「次はどちらへ」
セシリアが尋ねた。
「荷はどこへ運ぶのがいい」
「王都へ向かう道に、塩の買い手がいます」
「では、まずそこへ行こう」
王都には、調べなければならない金の流れがある。息子にも、友にも、会うことになるだろう。
だが今朝の行き先は、私たちで決めた。
私は海に背を向け、北風屋の馬車へ戻った。
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