第7話 消される前の記録
染料を運んだ荷役人が、ルカに話した。
銀鷺商会の倉庫で、古い帳簿を運び出しているという。どれが必要な記録かは分からない。荷役人も、怪しいと思ったから伝えただけだった。
「荷役人の出入りに紛れれば、今夜なら入れます」
ルカが言った。
「入らん」
私が答えると、彼はすぐに頷いた。
「そう言うと思いました。だから先に相談しました」
セシリアが港の監察官へ申し立てを書く。染料の入港時に作られた帳簿と、倉庫へ運んだ記録を保全してほしいという内容だった。
監察官はすでに税関から連絡を受けていた。翌朝に倉庫を調べると決まり、その日のうちに港の入港記録が封じられた。
火事が起きたのは、その夜だった。
宿の窓から港の方角に煙が見え、鐘が鳴る。私たちは通りへ出た。
銀鷺商会の倉庫の一角から火が上がっていた。港の兵と作業員が水を運び、外へ荷を引き出している。
「中に一人いる!」
誰かの叫びを聞いて、ルカが駆けた。
彼は入口にいた兵へ、荷役人が戻っていないことを伝える。兵が二人、濡れ布を被って中へ入り、ルカは外で運び出す道を空けた。
私も倉庫へ向かいかけ、肩を掴まれた。
「アルノルト様、外にいてください」
ミラだった。
「人を運んできます。こちらで診ますから、通りを空けてください」
私は頷き、見物人を下がらせた。やがて煙を吸った荷役人が兵に支えられて出てくる。ミラがすぐに診た。
倉庫の帳簿は一部が焼けた。
火の原因は、まだ分からない。都合の悪いものを消そうとした者がいるのか、それともただの火の不始末か、私たちには決められなかった。
監察官が先に保全した入港記録は無事だった。染料が着いた際の記録も残っている。
帰り道、ルカは煙の匂いのする外套を脱いだ。
「俺だけで入らなくてよかったです」
「ああ」
「兵がいたから、あの人を運べました」
私たちは歩きながら、互いの手の届く範囲が少しずつ分かってきていた。




