第6話 商人の信用
買い手が訪れるはずの日、北風屋の倉庫はまだ封じられていた。
毛織物を見に来た商人は、事情を聞くと取引を延期した。彼はセシリアへ申し訳なさそうに頭を下げたが、次にいつ買えるかは約束しない。
夕方、セシリアは宿の食堂で一人、帳簿を開いていた。
「私が店を離れたほうが、早く収まるかもしれません」
唐突な言葉だった。
「なぜだ」
「帳簿も申告も私が管理しています。私の間違い、あるいは私の仕業だと言えば、旦那様や店への疑いを減らせます」
「していないだろう」
「ええ。だから、腹が立つんです」
彼女はようやく顔を上げた。
「私は、きちんと仕事をしました。旦那様の名前に守ってもらうだけでは、私の仕事を信じてもらえない」
私は椅子を引いて座った。
「店を離れる必要はない。何を調べたい」
セシリアは少し驚いたようだった。
「北風屋の仕入れと運送の記録を、港の入港記録に突き合わせたいです。私から税関へ説明します」
「任せる」
私はそう言って、帳簿から手を離した。
次の日、セシリアは書類を持って港の役所へ行った。私は同行したが、説明は彼女がした。積んできた品の数量、道中の売上、ルーヴェンに到着した時刻。染料を載せた船が着いた日付と、一つずつ照らし合わせる。
役人は話を聞き、申告書に疑わしいところがあると認めた。ただ、名前を書き換えた者を調べるまでは、北風屋の荷を動かせないという。
役所を出ると、セシリアは大きく息を吐いた。
「まだ解放されませんでした」
「今日、分かったことはある」
「はい」
彼女は帳簿を抱え直した。
「次は、染料が倉庫に入ったときの名前を調べます」
その声に、迷いはなかった。




