第4話 店を守る理由
ジルベルトから、内密に話したいという使いが来た。
私はセシリアを伴って店へ向かった。ジルベルトは昨日と同じ部屋で待っていたが、今日は書類を机へ出さない。
「不幸な行き違いが重なりましたね」
「行き違いで、私の署名が増えるのか」
「港では、手続きの間違いも起こります」
彼は穏やかな声で続けた。
北風屋が銀鷺商会との関係を公に否定しなければ、染料の引き取り名義は手違いとして訂正する。税関にも説明し、北風屋の荷を早く解放できるよう取り計らうという。
「保証の書面は」
私が尋ねる。
「今までどおり、組合でお預かりします。実際にアルノルト様へご負担をかけることはありません」
「約束できるのか」
「長く良い関係を築きたいのです」
ジルベルトは微笑んだ。
黙っていれば、ユリアンの名が表に出るのを遅らせられるかもしれない。北風屋の品も売れる。頭の中に、一瞬そんな計算が生まれた。
セシリアが横で鞄を膝に置き直した。
彼女にとって、北風屋は旅の口実ではない。仕入れを考え、運賃を払い、買い手との約束を重ねた店だ。ルカもミラも、私と同じ馬車でここまで来た。
私が黙れば、次に名前を使われるのは誰だろう。
「その条件は受けられない」
ジルベルトは私を見た。
「北風屋の名義も、私の署名も、調べてもらう」
「時間がかかりますよ」
「承知している」
店を出ると、セシリアはしばらく黙って歩いた。
「旦那様」
「何だ」
「北風屋を守ると決めてくださって、ありがとうございます」
私は返事に迷った。
自分の店なのだから当然だ、と言うには、これまで彼女に任せきりだったことが多い。
「礼を言われるなら、私も言わねばならんな。店のことを教えてくれた」
セシリアは一度だけ笑い、すぐに帳簿の話を始めた。




