第9話 二人で架ける橋
橋を元どおりにするには時間がかかる。
子爵はその間、生活に必要な渡しの料金を抑えるよう手配し、村には仮橋を架ける許可と資材を出した。
イーダは図面を描き直した。柱の位置はハインツが示した岸へ移り、幅と支えの組み方にはイーダの工夫が残った。
「これなら少ない木で持つ」
ハインツが言う。
「冬の水位でも、ですか」
「そのために柱をここへ置く」
イーダは頷き、図面を直した。
作業の日、ルカは片腕をかばいながら資材を運んだ。アイナに見つかって叱られ、軽い板だけを担当することになる。
私はというと、ハインツに鋸を持つ前に追い払われた。
「前公爵様、茶を淹れてください」
「私にも木は運べる」
「膝を悪くして、また医者の手を取ります」
ミラが離れた場所で頷いている。私は大人しく湯を沸かした。
作業する者へ茶を配り、空になった器を集める。雨のあとで冷えた指には、温かい器がありがたいらしい。ハインツもイーダも、図面を挟んで議論を続けながら、何度か茶を飲みに来た。
三日目、仮橋が完成した。二人の大工が荷重を確かめ、まず歩行だけを認めることになった。
村の者が見守る中、フィーが最初に渡ると言い出す。
「俺が先に行く」
ルカが止める。
「兄さんは腕が痛いんでしょう」
「もう平気だ」
「私は両手が使えるもの」
フィーは慎重に歩き、向こう岸で振り返って手を振った。続いて村人たちが、少しずつ橋を渡り始める。
私はその様子を岸から眺めた。
私の働きで出来た橋ではない。イーダとハインツが考え、村の者が手を動かした橋だ。だが、その場にいてよかったと思った。
ルカが隣に立つ。
「俺、また北風屋についていきます」
「お母上は寂しがるだろう」
「手紙を書きます。フィーにも」
彼は橋の向こうで手を振る妹を見た。
「ここを守る人は、俺だけじゃないので」
「そうだな」
今なら、私にもその言葉の意味が分かった。
夕方、セシリアが村の織物商から買い付けた毛織物を荷台へ積んだ。ハルフェンで売った品とは違い、南方の羊毛を使った厚手の生地だという。
「港の冬支度に売れそうです」
彼女はそう言い、仕入れた日と数量を帳簿に記した。私たちが茶を配っている間にも、次の町へ運ぶ品を選んでいたのだ。




