第8話 橋の帳簿
橋の一部が落ちたことで、調査を待つ余裕はなくなった。
イーダとハインツは、雨が止むとすぐに橋を調べた。新しく折れた箇所だけでなく、古い亀裂の位置と深さを記録する。二人で確かめるうちに、以前の修繕で交換されるはずだった梁が、そのまま残っていることが分かった。
「新しい木材が届いていたなら、ここを替えています」
イーダが図面に印をつける。
ハインツも頷いた。
「三年前から、頼んでいた場所だ」
セシリアは運送人を連れ、銀鷺商会の船着き場へ行った。そこには、橋の修繕用として支払われた木材と寸法の合う材が使われている。運送人は、自分がその場所へ下ろしたことを証言した。
私は書類を束ね、ローデン子爵への面会を求めた。
子爵は領都にいた。橋が落ち、住民が危険にさらされたと聞き、翌日には私たちを受け入れた。
私は最初に、自分がこの領地を治める者ではないと告げた。そのうえで、セシリアの帳簿と職人二人の調査記録を渡す。
「代官所から村へ示された記録では、木材は橋へ運ばれたことになっています」
セシリアが言う。
「実際に下ろされたのは、銀鷺商会の船着き場です」
イーダが橋の図面を広げ、ハインツが交換されなかった梁を示す。二人は互いの説明を補いながら話した。
子爵は最後まで聞き、代官所の帳簿を保全するよう側近に命じた。オットーは調査が終わるまで職務を離れる。銀鷺商会との契約も確認されることになった。
「この領地で起きたことだ。私が調べ、責任を取る」
子爵が言った。
私は頭を下げた。
ここで判決まで求めに来たわけではない。まず、橋を使う人々が、もう一度安全に川を渡れるようにしたかった。
領都から戻る道で、セシリアが書類を抱え直した。
「同じ商会の名が続きますね」
「ああ」
「本拠地まで関わっているかは、まだ分かりません」
「分かるところまで、見ておこう」
私が言うと、彼女は少し笑った。
「商売のついでに、ですよ」




