第7話 守る者の言葉
翌日、私は寝台から起き上がることを禁じられた。
ルカは腕を傷めていたが、骨に異常はない。ミラが二人分の薬を作り、私を寝台の背に寄りかからせ、ルカを椅子へ座らせてから告げた。
「今日はどちらも働きません」
「俺は片腕が使えます」
ルカが言う。
「私は両手が使える」
私も言う。
「二人とも、耳を使って私の話を聞いてください」
ミラは薬箱を閉め、部屋を出た。
残された私たちは、しばらく窓の外を見ていた。川の音はまだ高い。
先に口を開いたのはルカだった。
「旦那は、俺を護衛にしたんですよね」
「ああ」
「危ないときは、俺が先に行く仕事です。それなのに、いつも旦那が出ようとする」
「昨日は止まった」
「止めなきゃ行ってました」
彼の言うとおりだった。
「……体が動かないのが、怖かった」
私は窓から目を離さずに言った。
「前に一度、床に倒れて、何もできなかった。周りの声だけが聞こえた」
現代日本のことだ。ルカに事情は説明できない。それでも、あの冷たい床の感触は、今も私の中にある。
「誰かを待つしかないと分かったとき、自分がもう必要とされないように思えた」
ルカは、すぐには何も言わなかった。
やがて、傷めていないほうの手を膝に置く。
「俺の祖父も、最後の頃は歩くのが大変でした」
初めて聞く話だった。
「昔は何でもできる人だったから、手を貸すと怒るんです。俺も意地になって、一度だけ置いて帰ったことがあります。そのあと転んで……大きな怪我じゃなかったけど、怖かった」
彼は私を見た。
「旦那を見てると、あのときのことを思い出します。守らせてください」
返す言葉を探した。
公爵だった頃、守ることは命じることと近かった。誰をどこへ配置すればよいかを考え、その結果を背負う。自分が守られる側にいるのは、今も落ち着かない。
「次は、お前の判断を聞く」
「聞くだけですか」
「従う努力もする」
「そこは約束してくださいよ」
「……分かった。約束する」
ルカは息を吐いた。
「俺も、旦那に何ができるか、年だけ見て決めません」
「助かる」
「だから、できないことは言ってください」
それは難しい。だが、昨日の川岸では言えたはずだ。縄を引く役ならできると。
ルカが手を差し出した。私は握り返した。
彼の掌にも、縄で擦れた傷があった。




