第4話 急ぐ理由
翌朝、渡し場で小さな口論が起きた。
村の女が、川向こうの治療院で子どもの薬を受け取ろうとしていた。手に持つ金では往復の渡し賃が足りない。船頭は気まずそうな顔をしていたが、料金を下げる権限はないらしい。
ルカが財布へ手を伸ばす前に、ミラが女へ声をかけた。
「薬の名を見せてください」
ミラは子どもの様子を聞き、手持ちの薬箱と照らし合わせた。必要なものを数日分だけ渡し、症状が変われば治療院へ行くよう伝える。
女が去ったあと、ルカは船を見つめていた。
「毎回、誰かが払えるわけじゃない」
「そうね」
セシリアは運送人たちと話し合い、生活に必要な荷だけは、数日間の渡し賃を商人たちで分担できないか交渉した。橋が直るまで続けられる方法ではない。それでも、今日薬を取りに行く人はいる。
昼過ぎ、ルカは壊れた橋の前で立ち止まった。
「荷を軽くすれば、歩いて渡れるんじゃないですか」
「先週から歩行も止められている」
「皆、遠回りか渡し船です。こっちならすぐなのに」
彼は床板へ足をかけようとした。
「ルカ」
私が呼ぶより早く、イーダが声を上げた。
「乗らないで!」
ハインツも測り棒を振っていた。
「中央だけでなく、岸側の桁も傷んでいる。今、試すな」
ルカは足を戻し、歯を食いしばった。
村に住む者ほど、不便の重さを知っている。私には、彼の苛立ちを短気と決めつける資格はなかった。
「できることを急ごう」
私が言うと、ルカは川を見たまま答えた。
「急いでるつもりです」
「そうだな」
彼が求めているのは励ましではない。今日の行き来をどうにかする方法だ。私たちはまだ、それを十分に用意できていなかった。




