第3話 修繕費の行方
北風屋は村にもう一泊した。
セシリアは不満を言わなかったが、渡し船の料金を帳簿に書く手つきが強い。北風屋の荷を向こう岸へ運ぶには、銀鷺商会に支払うしかない。
「橋を直す費用も集めているのに、渡るたびに料金を取られるのですね」
村長の家から戻った彼女が言った。
村には修繕費を納めた控えが残っていた。三年分ある。ローデン子爵領の代官所へ収められた額も分かる。
代官所が村へ知らせた支出の記録では、その金で木材を買い、橋の修繕に回したことになっていた。
「木材など届いていない」
ハインツは言い切った。
「倉庫にある分は、村が別に買ったものです」
「運んだ商人を調べます」
セシリアはすぐに帳簿を閉じた。
彼女は北風屋の商談を口実に、街道を行き来する運送人を訪ねた。私はルカと村に残り、橋の周りを歩いた。
川の少し上流には、銀鷺商会の渡し船がある。荷車を載せられる大きな船で、岸には新しい木材を使った立派な桟橋が組まれていた。
「橋に欲しいくらいの材だな」
ルカの声には棘があった。
「まだ、同じ材とは限らん」
私が言うと、彼は視線をそらした。
「分かってます」
夕方、セシリアが運送人の控えを持ち帰った。木材の長さと本数は、代官所の支出記録と一致する。届け先だけが違った。
橋ではなく、銀鷺商会の船着き場である。
「代官所の記録には橋へ納入したとあります」
セシリアが二枚の紙を並べる。
「運送人は船着き場で荷を下ろし、受け取りの印をもらっています。少なくとも、村へ運ばれたという説明は成り立ちません」
「橋が傷んだままなら、渡し船の客も減らない」
ルカが言った。
そう考えたくなる状況だった。だが、銀鷺商会の本拠地がどこまで関わっているかは分からない。ハルフェンの穀物も、ここの木材も、同じ商会の名へつながっている。
私は紙を重ねた。
「まず、この土地で金を動かした者を調べよう」
セシリアは頷き、書類を鞄の奥へしまった。




