第2話 橋を知る二人
橋は、私が想像した以上に傷んでいた。
木の主桁には古い亀裂が走り、中央の床板は沈んでいる。両端には通行を禁じる縄が張られていた。川幅は広くないが、水は速い。
橋の近くで図面を広げていた若い女性が、私たちに気づいた。
「渡れませんよ。見るだけなら、そこからどうぞ」
イーダ・ホルツという大工だった。二十二歳だという。図面には橋の少し上流に、細い歩道を架ける案が描かれている。
「荷馬車は無理でも、人が歩ける橋なら作れます。木材も、村に残っている分で足ります」
「岸は持つのか」
私が尋ねると、イーダは川の上流を指した。
「ここへ柱を立てます。流れは緩いので」
そこへ、年配の男が杖ではなく長い測り棒を持って現れた。
「緩いのは表だけだ」
ハインツと呼ばれたその男は、長年この橋を修繕してきた大工だった。彼はイーダの図面を一瞥し、鼻を鳴らす。
「増水すれば、岸の下が削られる。そこに柱を立てるのは危ない」
「前にもそう言われました」
イーダの声が硬くなる。
「なら、どこに立てればいいか教えてください」
「その図面では駄目だと言っている」
「だから、どこですか」
ハインツは答えず、川岸へ歩いていった。
二人の背中を見送り、ルカが小さく息を吐く。
「村ではずっとあんな調子です」
私はイーダの示した岸へ降りた。草の根元に、細い空洞がある。ハインツの言うとおり、増水時には土が流れるのだろう。
だが、イーダの図面に描かれた橋の幅はよく考えられていた。人がすれ違え、担架も通せる。使える木材の長さも確かめてある。
ハインツに追いつき、上流の岸を指した。
「柱に向く場所があるのだろう」
「あります。あの子には見えていない」
「なら、一緒に見に行くか」
「話を聞かん娘です」
「今は聞くと思うぞ」
振り返ると、イーダが図面を持って立っていた。ハインツがそちらを見る。
二人はしばらく黙ったあと、同じ川岸へ歩き出した。
私は後ろからついていった。口を出したのは最初だけで、あとは二人が地面を掘り、石の位置を確かめるのを見ていた。
「ここなら、柱を置けます」
イーダが言う。
「置ける。だが、冬の水位も見ろ」
ハインツが測り棒で岸に印をつけた。
何年もかけて知ったことと、これから作ろうとしているものが、ようやく同じ図面の上に載り始めた。




