第76話 魔王と戦う夜白⑩
魔力は、物魔結界に多く注いだ。
倒れながら、やたらに振り回す尻尾がクラスの皆のほうにも届いている。
和成の神聖結界では、まだこのレベルは支えきれないだろう。
その尻尾に、集中して一撃を振った。
《まさか……ここまでとは!》
魔王オロバロスの声に怒りがにじむ。
《ならば……こちらも攻めるまで》
胴体を狙った俺の剣筋が空ぶった。オロバロスが竜体から人型に変身したのだ。
紫色の体はそのままで、翼の生えた青年のような姿だ。
「ベノミナス・コード!」
噴射された毒霧を避けたが、それは俺を追尾してきた。
前世では人型など見なかったから、これも修行してきたのか?
粒のようになった毒霧を、片っ端から轟滅黒剣で叩き落すが、一つ避けきれなかった。
当たった左腕が、たちまち紫色に腫れ上がる。
「パーフェクトヒール!」
すかさず、和成が回復してくれたがこいつはもっと気を付けないとな。
魔力はすべて結界とザガンの回復に使っている。
俺にしてはなかなかの劣勢だ。
魔王オロバロスは、素早く空を飛び回る。
「ベノミナス――」
「させるか!」
旋回したオロバロスの胴体に轟滅黒剣を叩きつけるようにして、首を吹っ飛ばす。
毒液をまき散らしながらオロバロスが苦しみだしたが、依然としてその体は直立していた。
〇えっぐ……頭ないのに動いてる!
〇ずるくない?さっきから再生してるし
〇どうやって勝てんの?心臓
〇ドラゴン人間の心臓ってどこ?
〇夜白剣聖頑張れーーー!
〇いま家族全員で祈祷してる
〇投げ銭で画面めっちゃ見にくい!
魔王オロバロスの毒液から、更に眷属が生まれ続け一層は魔物で飽和爆発する。
仲間たちも結界の中とはいえ、もう前はよく見えないだろう。
そうなると、俺もオロバロスだけとはいかない。
勿論、オロバロスが最重要課題ではあるが、これだけの数をだされると結界を張るのが苦しくなった。
「天斬破!!」
ドラゴニュート、ワイバーン、レッサードラゴン、アイスエルフが、一斉にぶつ切りにされて空を舞った。
オロバロスには大技すぎて回避されたが、だいぶ視界は良くなったぞ。
《相変わらず、馬鹿力じゃな!》
これで、オロバロスに当たってたら百点だったな。
「夜白くん、大丈夫!?」
「気にするな、周りに集中してくれ」
言い方はきつくなってしまったが、マヒルたちの速度では魔王オロバロスには攻撃が当たらない。
それよりは、まだ当てられる眷属のほうに攻撃してもらうしかないしな。
それでも楓たちは、肩で息をしはじめた。
ずっと激戦続きだ、疲れるのは仕方ない。
《イグニス・ランツァーーー!! 何故倒せない!》
四度目のベノミナス・コードは完全に見切った。
問題は底を尽きそうな俺の魔力だ。
結界が壊れたら、俺以外は全員死んでしまう。
俺は完全に、筋力頼みで全身の力を轟滅黒剣に叩き込んだ。
今度こそ、消えてくれ。影竜王オロバロス!!
剣は心臓部に突き刺さり、俺は勢いを止められずにオロバロスを剣先に突き刺したまま一層の奥まで疾走した。
《いつか……いつ、かきさまを倒す……それが来世、でも……》
「成仏してくれ、さすがの俺でも三度目は嫌だよ」
異世界の魔族に、成仏は通じただろうか。
難敵だった、魔王オロバロス。
崩れ逝く姿に、本気で安心した。
俺は、今世では絶対に命を大事に扱うことを決めた。
二度と実験はしない。自分の体以外では。
「もうだいじょ――」
魔王オロバロスの心臓らしきところから、銀色の杖がドロップする。
しかし俺の目の前と、オロバロスの残された胴体から迸るように眷属が吐き出されていく。
動悸が激しくなった。
これは……魔力枯渇か?
はるか昔に体験したことがある、この感覚。
まずい、結界が壊れてしまう――!




