第74話 魔王と戦う夜白⑧
結界に亀裂が走った瞬間、俺が結界を張るより先にザガンが張りなおすほうが早かった。
『我が王は、魔王オロバロスに備えて余力を残しておいてください』
だけど、下の階を食い止めるのは……!
『ご安心を、魔王に進化覚醒して魔力量もかなり増えております。分身も持続しております』
俺も分身を深層にだすか。
『影竜王オロバロスがどう出るか分からないうちは、温存してくださいませ。それがしに代わる召喚魔はまた呼び出せましょうが、我が王の代わりはいませぬ』
ザガンの代わりだっていないんだぞ……!
召喚魔は主人の為に忠義を尽くす存在。分かっているけど、俺だってザガンが相棒なのがいい。
『主君にそこまで言われるとは、わが身の喜ぶところ』
「ごめん!! 今すぐちゃんと張りなおす!」
和成が叫ぶ。魔力ポーションを飲みながら、結界を維持するのに手こずったようだ。
「頑張ってくれ! 安全策もしいてあるが」
マヒル、朝日、楓、和成、は俺が結界魔法があるのを知っている。多分、俺の仕業だと思うんだろうな。
俺の前世まで話しておいて、なんでザガンのことを秘密にするのか。
きらりには知られてしまったけど、ザガンとは主従であり一番の戦友でもある。
要するに、何か気恥しいのだ。
「ボルカニック・シールド!」
「カラミティバースト!」
朝日と楓がうまく攻防連携しながら、一点集中で敵を蹴散らしている。
攻撃力10000を超えるコンビだ。今のところ俺以外には最高戦力になっている。
俺も、魔力をかなり轟滅黒剣の刀身に乗せる。目標は、この一層の壊滅だ。
「紫電烈閃!」
紫色の雷は、残波と共に遠く轟いた。
F級ダンジョンなので、壁にダメージが少しいったが魔物は一掃する。
「今のうちに回復を!」
クラスのほとんどが、急いで魔力ポーションを飲み始めた。
「いや、凄まじいな。夜白君」
宇賀神ハンターが汗を拭いた。
全クラスを巻き込んだ不幸だったが、全員が最低限の防御をしてくれていて良かった。
俺は、防御ピアスと胸当ての軽装備だったが、他の皆は全身まんべんなく装備を使っている。
宇賀神ハンターも、今は最高の装備をつけているはずだ。
二層でザガンが頑張っているおかげで、一層にあがってくる魔物は少ない。
マヒルの魔法はかなり広範囲なので、もう少し進んできたら射程圏内だろう。
だが、その前に俺が片付けなければ。
「マヒル、ボスが出てくるまで無理するな。奴の弱点は魔法だから」
「わかった!」
その瞬間、地面から魔物が沸いた。
飛翔するワイバーン。レッサードラゴンのブレスが結界に直撃する刹那、俺がその首を断ち切る。
《ふ、ふふふ。かつて孤高のイグニスが、現世ではこんなに矮小な人間を必死に守るとは》
出たな、魔王オロバロス!
「フレアジャベリン!」
すかさず、オロバロスの竜体にマヒルが火魔法を繰り出す。
オロバロスはそれを尻尾で振り払った。
《まあ、人間にしてはまあまあじゃが、イグニスお前は撃たんのか?》
黒い竜は、笑い声をあげる。
なんだ? なんでこいつはわざと俺を誘導するんだ?
オロバロスからしたら、弱点の魔法を使われたほうが不利じゃないのか。
「アイシクルランス!」
マヒルの魔法が連続する。
だが、それも翼が無造作に弾いた。
「おらぁぁぁぁぁぁぁ!」
宇賀神ハンターが拳聖らしく、素手でオロバロスに接近してパンチを撃とうとする。
オロバロスは、不快そうにそれを避けた。
……避けた?
『我が……王』
パリィンと、ザガンの結界が砕ける。
どうした!?
『影竜王オロバロスの、毒のブレスを、食らい……ました』
いったん、俺の中に戻って回復しろ。
『それは、なりません……』
ザガンが痙攣していくのが分かる。
俺とザガンをつなぐ糸が、一気に細くなっていった。
ザガンが危ない!
《最強の手ごまから倒してやったぞ? 気分はどうだ?》
魔王オロバロスは、息を吸い込む。
そして、みんなに向かって毒のブレスをぶつけたのだった。




