第73話 魔王と戦う夜白⑦
「気をつけろ、魔王だ」
俺の怒鳴り声が反響する暇もなく、オロバロスの眷属が一瞬で発生する。
ほとんどのクラスメイトの配信ドローンが、もう活動してしまっていた。
「神聖結界!」
和成が、即座に結界を広げた。
「マヒルちゃんは攻撃に専念して。結界は僕が頑張るから!」
「ボクもいるからね~」
朝日もすぐさまアグニラの盾を出す。
上空にはワイバーン、槍をもったドラゴニュート。氷の矢を繰り出すアイスエルフ。超大型のレッサードラゴン。
眷属もそれなりに強い。
『それなりどころか、SランクとSSランクですぞ!』
おそらく、結界が壊れて一撃でも当たったら、皆は死んでしまう。
「和成、絶対に維持してくれ――でないと」
「分かってる! 体力10000ある僕以外、もたないよね!」
ポーションと魔力ポーションは、ザガンにしこたま買い込ませてある。
ワイバーンに斬撃を飛ばしながら切り下したあと、皆にポーション類を渡した。
特に和成には、魔力ポーション多めのポーチを置いた。
サングロスの杖がなかったら、どうなっていたことか。
それでも、いつものメンバーと宇賀神ハンターは攻撃に転じているが、他のクラスメイトは固まったままだ。
規模のでかさと意味不明さで、混乱してるんだよな……。
はっとしたように、藤川が一番防御力の低い生徒に覆いかぶさった。
俺も、やむなく配信ドローンを動かした。DCAに危険を知らせなきゃならない。
俺の配信はすべてチェックしてるらしいからな。
「ふぁ、ファイヤーボール!」
小さな声がして、結界にたかるアイスエルフの間に火の玉が落ちる。
攻撃したのは、火乃森だった。
マヒルは、にこりと笑ってその肩を叩いた。
「ナイス、火乃森さん」
そこから勢いづいて、クラスの皆の攻撃が開始する。橘も、当然倒せないながらも楓を支えるように槍を繰り出す。
主力はマヒルと楓で、ドラゴニュートやワイバーンを攻撃してくれている。
「紅蓮一閃!!」
レッサードラゴンをなます切りにしたあと、アイスエルフを三体串刺しにしたところで配信画面が見えた。
〇またありえないモノと戦ってる!
〇ドラゴンいるのだが?しかも瞬殺なんだが??
〇こんなのS級ダンジョンにいた?
〇他の朱雀高のハンター科の子もこの画面だ
〇え?もしかしてクラス全員いる?
〇DCAに連絡!
〇もう連絡した
〇剣聖、みんなを守って!
〇なんか、楓とかも人外になりつつあるんだけど……三撃でダークエルフ?って倒せるもの?
〇ドラゴン「オレ、故郷に帰って親孝行するんだ」
肝心の魔王オロバロスの姿が見えない。
ただ、ダンジョンの奥から眷属がぞろぞろと湧き出て、止まる様子はない。
これは、クラスメイトを含んだ人質作戦なんだろうか。
『消耗戦かもしれませんな』
確かに、それはありえるな。
俺は一日中でも問題ないが、クラスの皆はそうはいかない。
俺のパーティーメンバーだって、そう長くはもたないはずだ。
誠志郎の操るシルバーフォックスとジャイアントウルフが、俺の横を駆け抜けたがドラゴニュートに倒されて消える。
俺が再びワイバーンを打ち落としていると、誠志郎が汗を流しながらアイスエルフを使役しようとしていた。
あいつ、とどめさせたのか?
俺は肩肘入れて絞めたアイスエルフを、誠志郎に差し出した。
誠志郎が必死に剣を振るっているが、なかなかとどめが入らない。
いつまでも俺が掴んでいられないぞ。どんどん奥から押し寄せてんだから。
「倒れろ、倒れろっ!」
だが、俺が停止している間に、目の届く範囲が魔物で埋まる。
俺は瀕死のアイスエルフを握ったまま、轟滅黒剣でどんどん衝撃波を放った。
狙ったレッサードラゴンと、ワイバーンが音をたてて倒れこむ。
ザガンは下の階にいって、視界外の魔物をどんどん倒してくれている。
『十層に下りても、オロバロスの眷属は止まりませんぞ』
ザガン、誠志郎がアイスエルフを倒すまで、もうちょい上の階にきてくれ。
片手で振り回すのは、じれったい。
一度、フロア全体を空にしてみんなを休ませないと。
『わかりました。二層に移動いたします』
ザガンがいて、毎度ありがたい。
きらり以外には内緒にしてしまっているけど、いつかパーティーメンバーにも教える日がくるかな。
元はハイデーモンとはいえ、今や立派な魔王となったザガンを召喚魔にしていることを。
「た、倒しましたよ!」
肩で息をする誠志郎が、やっとアイスエルフを倒して使役しようとする。
その瞬間、神聖結界がピシリと嫌な音を立てて、ひびが入った。




