第72話 不吉な前兆を感じた夜白
「不破くん……そんなに憧れていたなら私の美容院を紹介いたしましたのに」
マヒルとのデートから五日。
教室で俺は誠志郎に話しかけられて、困惑していた。
轟滅黒剣の防御力は花鈴によって130000を超えている。
グラキエスのように、即座に攻撃してこない魔王オロバロスの不気味さに耐えながらの日々。
いきなり昼休みに誠志郎がやってきて何か言い出した。
「なにいってんの? こいつ」
朝日が小声を出したが、目の前に当人がいたら意味がないと思う。
「なにか錯乱させたんじゃないのか、夜白」
「えっそんなスキルが? こわ~」
楓と和成の幼馴染コンビが、好き勝手なことを言って怖がりだした。誠志郎に、デバフをかけた覚えはないぞ。
「えっと……この間の、じゃない? 買い物に行ったとき……」
「あ」
俺とマヒルが逃げるところは数人に動画でとられてSNSでアップされていたが、俺が落としていったウィッグも撮影されていた。
剣聖がお忍びでかぶっていたもの、として数人がそれをかぶって写真をとっていたのを見つけていた。
「あれは別に憧れじゃ……」
「でも、私と見間違えられたのでしょう!?」
せりだすな、せりだすな。
魔肉弁当に唾が入りそうで、蓋を閉じる。
誠志郎は分かっているといいたげに、俺の肩を叩いた。
「正義の色は青! 目覚めたのなら、私と色味が似ていても我慢しますよ」
せんでいいわ。
自分の髪染めだしたら、まめに美容室とかいかなきゃいけないんだろ?
その辺の面倒は、和成から聞いて知ってるから。俺はやりたくない。
黒髪をトレンドにするから、関わらないでくれ。
「次、実習だから花鈴のとこに顔出してくる」
「いてらー」
誠志郎の視界から外れると、俺はアシスト科の作業室に向かった。花鈴は今や先生公認で、授業すら出ていないらしい。
その間も、誠志郎の青髪講座が止まらない。
なんだこいつ、もう殴っていいかな。
『我が王がやると、死なせますぞ』
ザガンがやっても死なせるだろ、同じことだ。
俺はしゃべる誠志郎を背後霊のようにくっつけたまま、作業室をあけた。
一応、手土産にキマイラ肉をカツのようにした、カツサンドもどきも持ってきている。
花鈴にだって、魔力は伸びてほしいもんな。
「花鈴ー、無事か?」
最低限、寮のお風呂などを借りているというが、制服のシャツを洗う暇がない花鈴は私服だった。
今夜、アシスト科の担任がクリーニングしてくれるはずだ。
「ああ、やしろ……今やっと150000に仕上げたとこ」
「おお」
思わず声をあげてしまった。
野菜ジュースとカツサンド~キマイラ肉にて~を渡すと、花鈴はすぐにストローを刺す。こいつ、朝ごはん食べてないな?
「次、実習だから持ってくな。ありがと」
「そしたら、仮眠しようかなぁ……終わったら持ってきて」
あくびしながら手を振る花鈴と別れて、轟滅黒剣を持って教室に戻る。
……ん? 剣に新しいスキルがある。レベルがあがって発生したのか。
この間、驚いたことに、誠志郎はまだ喋っていた。
「おい、いい加減実技服に着替えてこい」
俺も着替えないと。
マヒルたちは、もう着替えて満足そうに座っている。
弁当箱を見ると、空だ。
俺は少し食べたりなかったんだが……。
「はっは、移動だろう? 引率するぞ」
宇賀神ハンターはもう、朱雀校の臨時講師のように馴染んでいる。
本来担任の藤川太郎は、もう背後からついてくる始末だ。
着替えて、仕方なくいつものF級ダンジョンに向かう。
二、三年になっても深いところから最深部前後までしか行けないらしい。
学校にもせめてC級ダンジョンがあればなぁ。
『学校側も、レベル40を超える生徒だの、ステータスが大賢者な生徒がくるとは思いませんぞ』
いや、想定していこうよ……。
もはや俺たちに至っては、パーティーを成していない。もう、一人ずつ軽く叩いて時間を潰している状態だ。
いっときはクラスメイトの助っ人もやったのだが、力の差が激しすぎて助っ人を越えてしまった。
「どうする? といっても今日も三十層付近までだが」
「僕でも叩いたら魔石化するんだよ?」
和成までが、ため息をつく。でも、和成はまだヒーラーな分、他のパーティーに呼ばれてるじゃないか。
「じゃあ、そしたらタイムアタックとかにしない? 夜白君は別枠で、四人で」
マヒルの提案に、皆が喜ぶ。だが、俺は別枠……?
『いや、むしろ何故同じ枠だと思ったのです? 力の差を考えてくだされ』
ザガンに突っ込まれながら、ダンジョンに足を踏み入れる。
先頭は宇賀神ハンターで、最後尾は藤川と、火乃森、橘だ。
『――これは』
きたな、魔王影竜王オロバロス。
ザガン、きらりは?
『ご無事です。ご家族は問題なく』
F級ダンジョンに、魔王か。
これが最後の魔王戦。
勝ってやるぞ、この勝負!




