第70話 デートする夜白
俺たちは、人の少ないショッピングモールで下ろされる。
宇賀神ハンターは車で待機して、スカイギルドの大空ハンターが代わりにきてくれた。
DCAとしても、普段のダンジョン攻略もあり人手が足らないらしい。そもそも、ジョブランクの高い人材は高い契約金で他の個人ギルドに引き抜かれるわけで、国が動かすDCAは通年人手不足だという。
そう考えると、Aランクジョブの桜井ハンターなんかは高い契約金より国を選んだんだなぁ。
けど、大空ハンターも人気者の一人なのに……。こんなことに付き合わせていいのだろうか。
「まあ、プロの人気ナンバーワンは宇賀神ハンターだからね。私は三十五位だし。地味だし」
「いえ、三十五位もかなり凄いとおもうんですが」
駐車場で落ち合って話すと、大空ハンターが苦笑いした。
そういえば、年末にハンターへ投票するイベントがあったな。
「学生ハンター配信一位の夜白くんに言われると、心強いなぁ」
嫌味じゃないからね、と付け加えたがその目は笑っている。
大空ハンターには、俺が古代魔法ぶっぱなして生まれたエンペラーオークを倒すのに腕試しされたり、その後出てきた魔王アグニラと一緒に戦ったり。
この人とも浅からぬ縁だよな。
「じゃあ、こっちで見張ってるからデートを楽しんでね」
キャップを深くかぶりなおした大空ハンターは、重そうな装備が入ったリュックをかつぐ。
実は花鈴に轟滅黒剣を渡したままだと知れたら、二人のプロハンターは倒れそうだ。
花鈴いわく時間は有限である。花鈴の魔力が回復したら即座に轟滅黒剣の防御力をあげたいという。
なので、大量のSランク魔石と共に作業室に寝袋を持ち込んでいるようだ。
いざとなったら分身して取りにいけばいいと思って、その辺の話を勝手に伏せている。
「行こうマヒル」
「うん! 実は、私もこの際だからピアスあけちゃおうかと思って……」
「いいんじゃないか? マヒルのピアッサーはじゃあ俺が買おう」
あまり自信がないまま、そっとマヒルに手を伸ばす。
だが、マヒルは笑顔で俺の手を握ってくれた。
『甘酸っぱいですなぁ』
黙れ魔王。普段はこういうとき出てこないくせに。
「和成くんが、学費と寮の費用のあてにSランク魔石を売ったけどあまりの値段にびっくりしてたね」
「普段はFランク魔石だしなぁ」
マヒルが、気を使って”Sランク”という言葉を発するときに、俺の耳元に囁く。
魔王が出現してもどきりともしない心臓が、一瞬で跳ねた。
俺とマヒルは、正式に付き合おうとか話したことはない。瞬間移動で迎えに行っていたときに、移動が終わったあとも少し抱きしめてしまっていたくらいだ。
ただ、朝日からの好意にも、さすがの俺も最近気が付いている。
俺とマヒルがくっつくことで、マヒルと朝日の友情と俺と朝日の友情が壊れやしないかが不安だった。
まあ、断られないことを前提の話だが。
「夜白くん、魔王が出てくること、まだ気にしてる?」
ピアッサーを二つお互いのものを買ったあと、マヒルのファーストピアスを選びながらマヒルが言いだした。
「ああ、それは――まあ」
グループチャットでも話したのだが、俺の側にいると前世の俺のせいで魔王に巻き込まれる。さんざんすでに巻き込んでいるわけだが、最後の四天王影竜王オロバロスは避けられるかもしれない。
だから、オロバロスを倒すまではしばらく疎遠になったほうが安心じゃないか。と俺は提案したのだが――。
「なにを今更」 と笑った朝日。「今頃言われてももうターゲットリストじゃないの?」と和成。
楓は「グラキエスの双刀をもらった恩に報いるのはまだまだだ」とそれぞれ却下してきた。
「私も、離れるのは反対。夜白くんが大変なときに、傍観者でいたくない。夜白君は巻き込んで悪いと思ってるけど――みんなアシュラオーガの肉で気持ち悪くなってでも、側にいたいって思ってるのを分かってほしい」
「うん……それはそれでわかってるつもりだ」
機微にさとくない俺でも、それぐらいはな。分かってるつもりだ。
ただ、魔王サングロスではきらりという人質があったにせよ、苦戦したのは確かだ。
まして最後の敵は前世で最強だったオロバロス。弱点は魔法系なので、剣聖としては不利になる。
戦う場所によっては、俺個人だけなら魔法と剣で戦えた。古代魔法を禁じ手にしても、そうとうパワーアップしてなきゃ大丈夫だと思う。
だが、配信画面が動いている中とか、事情を知らないメンバーがいるとしたら魔法は使えない。
出たとこ勝負なのが、少しヒヤリとするかな。
『あまり気にするとフラグが立ちますぞ』
ザガンがいうと当たるからなぁ。フラグ建築しないうちに、考えるのを止めよう。
「マヒル、このピアスはどうだ?」
「うーん、可愛いけど……できれば夜白くんと似ているやつがいいかも」
お揃いか……少し恥ずかしいが。
「じゃあ、こっちのはどうだ?」
「いいね、だいぶ似てる気がする」
「じゃあ、これで会計してくる」
マヒルの手を離して、レジで会計を済ませる。思ったより同じ高校生が多くて、混んでいるな。
「あの……もしかしてネクロマンサーの誠志郎さんですか?」
「は?」
学生服の男子に突然話しかけられて、俺はずっこけそうになった。
誰が誠志郎だって……?俺はあんな不思議キャラじゃないぞ!
思わず勢いで振り返ると、学生服は凄まじい声をあげた。
「えーーーーーーーーーー!? 剣聖夜白!!??」
まずい、マヒルを連れて撤退だ!




