第67話 釈明する夜白
宇賀神ハンターからは、想定より怒られなかった。
むしろ抜け出したことを気づかなかったことを悔しがっていて、まさか瞬間移動とはいえずにいる。とりあえず、裏門からタクシーを使って移動したことになっていた。
さんざん怒ったのはDCA長官だ。
大人を信用しろ、などいろいろ言われたが、待っていたらきらりだけでなく多くの生徒が危険だった。
なので、神妙な顔して適当に頷いてやり過ごした。
問題はきらりだった。三体目の魔王がきらりを狙って、苦戦をしいた。
四番目の魔王が狙うかもしれない――そのためにきらりは四天王討伐まで家でリモート学習となった。もちろんプロハンター付きで。
これはさほど目立たない。一部の保護者や生徒の中で、魔物が発生した学校に通わせるのが怖いということで、そこそこの数がリモート学習を希望したのだ。
学校としても、魔物が暴れたせいで一部壊れた教室や廊下、俺が主な原因の壊れた体育館――それらの修復で、リモート学習が推進されている。
ついでに父までリモート就業になった。営業じゃなくてよかったけど、ほんとにすまんと思ってる。
自宅には二人のプロハンターがつくので、母が買い物に行く時もハンターがつく。
両親はそんな生活になっても、俺の心配ばかりしていたけど。
『魔王を討ち果たすまでとはいえ、予想外に大変なことになりましたなぁ』
あとは、たくさんの魔石の問題だ。
俺たちは相談して、学校の修繕費にあててくれるように言ったが、それは三割ほどの魔石で贖えるという。
そこで、一割はDCAに。もう一割は宇賀神ハンターに。それぞれ渡して、残りの五割を俺たちが一割ずつもらうことになった。
俺はまだS級の魔石がたくさんある。
なので、アシュラオーガのSSランク気味のその魔石は、功労者としてザガンに食べさせた。
そのおかげで、ザガンはアークデーモンからデーモンロードへと、とうとう魔王に覚醒してしまった。
今戦えば、アシュラオーガも二撃で倒せるだろう。
ただ実際、校舎に落ちていた魔石は俺は無関係だ。辞退したんだが、みんなに武器や魔肉代だとごり押しされて渡されたといっていい。
Sランク相当の魔肉の相場を宇賀神ハンターから聞いたらしく、俺にも渡してくれたらしい。
そんな――俺が自力で仕留めたんだから、価格なんて気にしなくていいのに。
今回、たくさんの魔肉もドロップしたんだし。
まあ、俺が収納魔法で倉庫のように管理してるけれども。
アシュラオーガの肉塊は、三個しかなかったが凄いおいしい肉だった。
茹でても焼いても、とろとろの身は、全員絶句したまま食べたほどだ。
ましてマヒルなんかは、それが原因なのか火魔法も覚えたりした。
ステータスも異様に伸びたのは、さすがSSランクの魔肉。Sランクでもあれだけ再生する魔物は、聞いたことがない。せいぜい第二形態を持つものくらいだ。
『しかし、次は我が王が唯一知る魔王ですが……。以前に名前を聞きましたが、どのような魔王でしょう』
影竜王オロバロスか……。
あれは前世では画期的な、消しゴムを発明するために散々煮たり溶かしたり――。
『やはり、拷問したんですな!』
せめて実験といえ。
あれは、眷属に厄介なやつがたくさんいたなぁ。名前の通り竜だったし、たちが悪かったな。捕獲するのに一番苦労した思い出だ。
『相手にとったら地獄のメモリーですぞ』
そうかな……そうかもな。
「お兄ちゃん……? ちょっといい? ここ分からないんだけど」
きらりが俺の部屋に顔をだす。
本日の俺は学校、そのあと放課後の屋上で勝手に焼き肉パーティー。からの帰宅したところだ。
宇賀神ハンターは、家だと離れてくれるが学校だとトイレにもついてくるレベルで警戒してくる。なので、屋上にもついてきたのでこっちのメンタルは疲れている。
だが、相手がきらりなら話は別だ。
「おいで。まだ勉強してたのか」
「ううん、これ宿題」
宿題か……。覚醒紋持ちは、基礎勉強ほとんどないからなぁ。
あとは魔物の弱点とか、図鑑を覚えるとかがほとんどだ。なので、基礎勉強で赤点を取ってる楓と朝日が逆に凄い。
「どれどれ」
どれも応用編で躓いていたので、きらりに基礎から教えなおすとすんなりと問題を解いた。
「あのね……お兄ちゃんのことなんだけど」
そうか、きらりにとっては勉強は口実で、昨日の話をしたかったのか。
むしろ、こっちから切り出さなくて悪いことをしたな……。
「うん。俺から話せばよかったな」
「ううん……。あの銀髪の人も、魔法も秘密だって約束してたのに……」
友達に打ち明けるのと、妹に打ち明けるのは違う勇気がいる。
ぽつりぽつりと、俺の前世の話やステータスのこと、ザガンの正体を話して詫びた。
きらりはその間、かみしめるように俺の話を聞いていた。
「つまり、お兄ちゃんの魂は前世の記憶があるだけで、他は何も変わらないんだね」
「いや、まあ。はたからするとかなり異常らしいけど……」
むしろ、前世の行いが今、きらりも巻き込んで大きな迷惑になっているのだが。
次も狙われたら、どう謝ればいいのか。もし間に合わなかったら、俺は正気でいられないと思う。
『それがしがおりますぞ! 分身の魔法もデーモンロードになったら使えるようになりました。片時もきらり殿から離れませんので、ご安心を』
ああ、それは本当に助かる――。
本来なら、宇賀神ハンターにはきらりについててほしいが、ザガンがいれば安心だしな。
「私、お兄ちゃんの妹で良かった! これだけ強いお兄ちゃんがいる妹なんて、他にいないよね。あと一人の魔王がいるってわかってても、安心して眠れるよ! だから、お兄ちゃんは――絶対負け、な、い……で」
きらりの目から、涙が止まらなくなる。
俺は誤解をしていた。魔王サングロスに捕まれて。至近距離で魔王といるのはさぞ怖かっただろう。
でも、きらりはそれだけじゃなく、俺の心配をしていたのだ。
魔王四天王に狙われる家族を持てば、それは当たり前なのかもしれない。
「絶対負けないから安心しろ! 俺はチートな元大賢者で剣聖だからな!」
「うん……うん!」
泣きつかれたきらりは、俺の膝で眠ってしまった。
まだまだあどけない寝顔に、俺は誓う。
影竜王オロバロスを、必ず打ち倒してみせると。




