第65話 魔王と戦う夜白⑥
《イグニス・ランツァ……弱点はその女だけか?くくく……自ら弱点を増やしよって》
魔王サングロスが不気味な笑みをたたえる。
俺の脳裏に、マヒル、朝日、和成、楓の顔が浮かぶ。
校庭のほうで、大きな悲鳴があがった。
ザガン、少しだけ見てきてくれ……!
要は俺がこいつを秒殺すれば問題ない。はずだ……。
『――校庭にアシュラオーガが三体出現しました……! その力、それがしとほぼ変わりません』
くそっ……それだけの強さだと、攻撃力10000になった楓でもすぐには倒せない。
朝日やマヒルと連携しても、その場しのぎが精いっぱい。
分身として残している俺も、その三割の力では一体倒すのにも時間がかかる。
かといってザガンには、ここできらりを見てもらわないと困るんだ。
どちらかをなんて、選べるわけがない。
そう、一人で研究に明け暮れていた前世の俺 と今は違う。守りたいものはたくさんあるんだ。
『我が王、それがしを行かせてくださいませ! 透明化したまま、全力で結界を張ればしばらく持たせます! その間に、我が王がこやつを倒せば……!』
わかった……行ってくれ、ザガン。
『は!必ずや』
きらりには何枚も張れるだけ物魔結界と神聖結界を張る。
魔王サングロスの属性的に、聖属性は相性最悪だろう。
《小細工をしても、無駄なこと……》
きらりに結界を山のようにかけて、俺は素手で突っ込んだ。
サングロスの五本の腕が、俺を追いかけて進路を阻む。
こいつ、さっき破壊した六本目、なんで再生しないんだろう。おそらく、油断を狙ってきらりをまたさらう気かもしれない。
《我の攻撃はこれだけではないわ!》
三個の口から、血の刃が吐き出される。
二つはかわしたが、一つはよけきれずに肩に食らう。
轟滅黒剣は、花鈴によって50000の防御力を持つが装備していない俺は5000と少し。サングロスの攻撃は阻めない。
《相変わらず防御は弱いのう》
剣を拾おうとした俺を、サングロスの腕がなぎ倒しにきた。
その腕を殴って破壊し、魔剣を掴もうとした俺は再び血刃を食らう。
足と腕がジンジンと痛みを伝えてくるが、逆に却って俺は冷静になった。
一瞬でも早く倒そうと焦ってた。
それでも、ザガンからはびりびりと張りつめた空気だけが伝わってくる。まだ、負けてはいない。
きっとみんなも持てる力を振り絞っている。
「インフェルノ・ブレイズ!」
灼熱の焔で、魔王サングロスを焼きあげた。
きらりを狙った六本目の腕が、伸び切る前に焼失する。
物理耐性はあっても、魔法は弱いか。
古代魔法を撃ちたいが、俺の三割が欠けていることとザガンが全力で俺の魔力を使っているので、魔力の回復がかなり遅れている。
「ライトニングレイド!」
神雷が、再生を焦るサングロスの全身に刺さった。
轟滅黒剣まで、あと一歩……。
《くくく、こいつがそんなに必要か?》
丸焦げの体からグロテスクな再生をとげるサングロスが、轟滅黒剣に手を伸ばす。
《そんなに優秀な武器なら、我が使って――》
轟滅黒剣を拾うとしたサングロスが、驚愕の顔を浮かべた。
やはり、魔王でも持ち上げられないか。
俺の愛刀に感謝しなくちゃな。
魔王サングロスの手首ごと、轟滅黒剣を蹴り上げて、宙に舞った刀身を俺が掴んだ。
「紅蓮一閃ー!!」
今持ちうる魔力を全開にして、サングロスへと一撃を叩き込む。
紅の閃光が壊滅状態の体育祭を、包む。
次の瞬間、鼓膜が破れるほどの絶叫が走った。
《次は……そうはいかぬ……我らの、仇は……影竜王オロバロスさ、ま、が……》
魔王サングロスがいた空間には、白い杖が一つ転がっていた。
「きらり……! もう大丈夫だ」
結界で輝くきらりが、俺に泣きながら飛びついてくる。
作り手の俺が阻まれるわけがないので、俺の体も結界の中に沈む。
「おにいちゃ……血が出てる~~」
さぞ怖かったろうに、きらりは俺の負傷に泣いていた。
「ただな、まだ皆戦ってる。まだ頑張れるか?」
「うん!! でも、お兄ちゃんの傷が……」
「ヒーラーの仲間を連れてきてる、大丈夫だ」
ザガン、みんな、今いくからな!




