第64話 魔王と戦う夜白⑥
「あ……剣聖の……」
震えて固まる数名の生徒が残っている。
その目には、涙があふれていた。日常生活をしていたら、突然魔物に襲われるのは怖かったろう。
一番前でみんなをかばうようにして立っていた女の子の左手には、剣の覚醒紋が見えていた。
ジョブも分からない、武器もないまま、ハンター紋を持っているものとして、立ちはだかった勇気を褒めてあげたい。きらりの同級生なら、二年後は同じ朱雀校生かな。
「合図したら、まっすぐ走ってここを出る、いいね?」
俺は話しかけながらも、マンティコアをぶつ切りにした。
魔王グラキエス戦と同じく、こいつも召喚で数を優位にするタイプだ。
ただ、アグニラやグラキエスとは魔力量が違う。四天王と言っていたが、こいつの次はもっと強いかもしれない。
少女たちは頷いているのか、震えているのか分からない。
俺の眼にはザガンが張った、欠けた結界が見えている。おそらく、最初はきらりもそこにいて、ザガンが結界で守っていたんだろう。
そこをぶち抜いて、きらりを奪ったな。
「走るんだ! でないと俺が思い切り戦えないし、守り切れない」
普段より大きな声をだすと、ハンター紋の少女が強く頷く。少女たちはお互いに手を握り合って、その手の節が白くなるほどの力だった。
これなら、先頭の子が走り出したら勢いで走ってくれそうだ。
「走れ!!」
少女たちの走路を、俺が切って道を開ける。
《そうはさせぬわ……!》
血哭王サングロスの腕が一本伸びて、俺たちに襲いかかった。
剣先で魔王の腕を跳ね返したが、走っていた少女たちが一刀両断したケルベロスの血に滑る。
「立てるか!? 頑張れ!」
立たせたいが、俺の両手は塞がっている。
殴りつけるように、一度サングロスの腕を叩き返す。
いったん轟滅黒剣を腰に戻し、しなるように戻ってきたサングロスの腕を左手で掴んだ。
そのまま右手で、掴んだ腕にガツガツと全力で殴る。
太くて長い腕は、たちまち亀裂が走ったが、砕け散る前にサングロスは腕を振り回して俺を叩きつけようとした。
背後で、なんとか立ち上がった少女たちが、必死に体育館の外へと泣きながら走るのを確認する。
――もうひと踏ん張り。
サングロスの腕からすり抜けて、俺はその腕を折り取った。
ザガンが、その瞬間、きらりを掴んでいた腕を攻撃する。
《甘いわ!!》
ザガンを避けようと、サングロスの動きが早くなった。
魔王サングロスは、防御力は高いが攻撃力は高くない。俺は轟滅黒剣を全力で余った腕へ投げつけると同時に、複数の魔法を使った。
「アースシェイク!」
体育館の床が抜け、サングロスの体勢が崩れる。
そのまま、俺の剣から逃げようとして――大きく咆哮した。
ザガンが狙ったのはミスリード、俺が放ったのはアースシェイクと”結界”魔法。
魔王サングロスの腕が緩んだ瞬間に、俺がきらりに守護結界魔法をかけたのだ。
きらりを掴みなおそうとして、結界に阻まれる。
《小賢しい真似を……!》
こちとらただの人間なんでな、小賢しかろうとなんでも使うんだよ。
ナイスだ、ザガン。
『きらり殿は逃がしますか……?』
いや、俺の最大の弱点がきらりなことを分かってる。
外に出したら、召喚がもっと勢いづくかもしれない。
現に、俺とサングロスが戦い始めてからこの体育館の召喚は止まっている。
きらりには怖い思いをさせるが、このまま俺の背後にいるのが一番安全だ。
「きらり……怖いかもしれないけど、絶対守るからな」
見えない結界を、こわごわと触りながらきらりは頷いた。
「信じてたもん、お兄ちゃんのこと。もう、怖くないんだから」
さすが、俺の妹。
あとは俺が大元を倒すだけ。
問題は、轟滅黒剣をさっき投げ飛ばして、手元にないことだな。
「きらり、こいつと俺の魔法……見なかったことに出来るか?」
ザガンが落ち着かなげに銀髪を揺らす。いつもは透明なまま見守っているから、身内に姿を見られたことはないもんな。
「うん。事情は分からないけど、お兄ちゃんがそういうなら」
「よし……。ザガンはきらりの横にいてくれ」
「はっ!」
もう、不安要素はない。
全力でこいつを叩くだけだ。




