第63話 魔王と戦う夜白⑤
きらりの中学校は、混沌と呼べる騒ぎだった。
たくさんの生徒が校舎から走り出て、絶叫している。そしてそれを追う魔物たち。
「オレと和成、朝日さんとマヒルさんで別れよう。夜白は単独。ポーションどれだけ持ってる?」
実技服に着替えないで来たから、みんな制服だ。
連れてくるなら、俺以外は着替えてもらえばよかった。
「ポーションなら五十個ある。みんな持てるだけ持って行ってくれ」
魔力ポーションも、収納魔法からあるだけ出す。C級ダンジョンでの魔石を買い取ってもらったときに、少し買いだめしたやつだ。
もっと買っておけば良かった……。
今回の敵は、知らない間に俺の弱点を探りに来ている。こない間にもっと手を打っておけば。
「わかった。持てるだけ持っていく!」
「任せて!」
四人は、それぞれポーションと魔力ポーションをポケットに詰め込む。
こうしている間にも、ザガンは一人できらりを守っている。
「戦いで深追いはするな。なるべく校外に避難させて」
「わかってるよ、夜白。けが人を出さないこと、守りながら生徒をどんどん学校の外に出すこと。メインは救助だ」
力強く、和成が頷いて、校内でどう別れるかをざっと作戦を立てた。
『我が王、きらり殿は体育館です!』
「……俺は体育館にいく」
朝日が、つま先立って俺の頭を撫でる。
「そこにきらりちゃんがいるんだね?」
「ああ……魔王の狙いはそもそも俺だから」
「わかってる、行ってきて」
そうこうしている間にも、校舎からは悲鳴が止まらない。
マヒルが先頭にたち、それを朝日と楓と和成が追う。
俺だけ、校舎からずれて体育館へと直行した。
ふと、それでも罪悪感で宇賀神ハンターを思い出す。一言、ここの住所を送って遅れてでもプロハンターを送ってもらわないと。
既に教職員が連絡をしているかもしれないが、魔王が絡んでいるとは知るはずがない。
俺はGPS情報と魔王がらみなこと。そして無断でみんなで抜け出したことを詫びた文章を、チャットに送信してからスマホをしまった。
「せいっ!」
校舎の上空で旋回しているワイバーンを、四体まとめて飛ばした斬撃で叩き落す。
マヒルが結界をしこうと、朝日が防御しようと上空からこの破壊力は、長く持たないだろう。
俺は久しぶりに分身の魔法で力が3:7になるように分かれた。防御は3のほうで大丈夫だろう。
分身体には、校庭に留まってワイバーンを含めての魔物討伐を任せる。
『我が王、この魔王は血哭王サングロスと名乗っております。申し訳ございません――その手にきらり殿が』
体育館の扉を、俺は乱暴にこじあけた。
形が曲がった扉は、音を立てて地面に転がる。
マンティコアとケルベロスが、すぐさま牙をむいて襲い掛かってくるのを轟滅黒剣で受け止めた。
その巨躯を押しのけて、一撃で上下に真っ二つにする。
もう俺は、その血を避けるつもりもなかった。
ザガンはよくやった。
許せないのは、魔王サングロスのほうだ。
「ぶっ殺してやるぞ……」
《ひひひひひ、懐かしのイグニス・ランツァだなぁ。アグニラやグラキエスは倒しても我は倒せまい……》
ほとんどどくろのような人型は、頭を三つ持っていた。
六本の腕の一つに――真っ青になったきらりがしっかりと掴まれている。
「今、助けるぞ……きらり」
色を失った唇が、俺をみて震えが止まった。
すぐに、助けるからな。
しっかりと頷くきらりを見て、俺はザガンと打ち合わせをした。




