第62話 危機を察知した夜白
谷之との謎のトラブルから数日。
頭を刈り上げた谷之の謝罪動画などが世間をにぎわせたが、俺には関係がないことだ。
『谷之当人ではなく、京都の玄武高の校長の指示でして。なかなかの騒ぎでしたぞ』
ミーハーなザガンが色々情報を仕入れてきた。
玄武高の唯一のSランクジョブだった谷之は、かなり優遇されてちやほやされてきたらしい。
それでも、配信の伸びは俺たちには叶わず、実力で勝てると思って誰にも相談せずに上京したようだ。
キマイラ討伐配信――実際は魔王戦だったのだが――あれを見て、逆に谷之は「許可さえ出れば自分も出来る」と思ったそうだ。
当日の夜、騒ぎを知った玄武校の校長はDCAに詫び、桜井ハンターに詫び、うちの朱雀校の校長にも詫びにきたらしい。
そんなDCAは俺が魔石を一部置いていったことや、最後の一撃でダンジョンからミスリルが取れたことで機嫌はそう悪くなかったそうだ。
「凄い騒ぎだったね」
放課後、休み明けのテストで赤点を出してしまった楓と朝日が机にかじりついている。それをみっちりしごく和成に向かって、俺とマヒルは売店から戻る途中だ。
「俺としては、結局よくわからなかったな」
「谷之さんの気持ちが?」
「そう、誰かと比較して強くなるもんじゃない。ただ突き詰めた結果、強くなるわけだから」
マヒルは少し首をかしげた。長い髪がサラサラと流れる。
「それは少し手厳しい意見かも。私もSランクジョブの賢者を引いたときは、ラッキーだなって思っちゃったし……。それでいて魔力の低さに色々言われちゃって、落ち込んだし。夜白くんに助けてもらわなかったら、私もああなってたかもよ?」
「まさか、マヒルはそんなことにはならない」
俺が少し加速させたかもしれないけど、元々マヒルは頑張り屋だ。
諦めずにこつこつやれば、ステータスはついてくる。そうじゃなきゃ、ハンターの覚醒紋は身につかなかっただろう。
最初のころのマヒルは魔力が5で、何もスキルが使えず、苦労していた。
それでも、心無いコメントがきても一切俺に甘えてこなかった。
頼ってきたのは一度だけ――火乃森と橘による背後からの直接攻撃のあとだけ。
多分、もしあの嫌がらせがしょぼければ、マヒルは頼ってこなかった気がする。
そういうところを見て、魔力が加算するネックレスを贈ったんだよな。
今となっては、、ほぼ不要アイテムだがマヒルはいつも身に着けてくれている。
「マヒル……」
「うん?」
「今度、デー……」
デートしないかという言葉を、とっさに飲み込んだ。
俺の中で、いきなり危機を伝えるサイレンが鳴りだした。だが、周辺に魔力を飛ばしても何も該当しない。
『我が王、S級ダンジョンにも何も――』
ザガン、これはもしかして――。
俺のスマホが、不吉なタイミングで鳴る。
電話の先は――妹のきらりだった。
「おに……ちゃ……たす……け」
聞こえたのはそれだけ。電話は不自然に切れた。
かけなおしたが、電波がないと機械音に告げられる。
ザガン! きらりの学校に――!
『はっ』
俺の顔色が変わったことに、マヒルはすぐに気が付いた。
「夜白くん、何か出来ることがある?」
「いや――俺が一人で……行かないと」
こういうときに限って、轟滅黒剣は教室だ。
走り出す俺を、マヒルが追ってくる気配がしたが足を緩める気になれなかった。
『我が王、きらり殿の中学校に魔物が沸いております!』
先に、きらりの安全の確保をしておいてくれ。
『はっ!』
やはり――これも、魔王の一人のやり方か。
ダンジョンなしに、魔物は湧かない。しかも学校のある地区はダンジョンから遠く建てられる。
グラキエスのあと、なかなか出てこないと思ったら今回の魔王はリサーチをしたらしい。
俺の弱点を探るとは、一番厄介な敵だな。
教室に飛び込むと、轟滅黒剣を掴む。
机が倒れるのも構わず飛び出そうとした俺を、楓が引き留めた。
「血相変えてどこ行く!? なにがあった」
「――何も証拠は出せないが、きらりが危ない。おそらくまた魔王関連だ」
「夜白の妹の?」
ザガンのことを説明している暇はない。
今すぐ、瞬間移動を――。
「待って、私も行くから置いていかないで!」
息を切らしたマヒルが追いついてきて、俺の袖をつかむ。
朝日も和成も、すぐに自分の荷物から武器を取り出した。
「僕たちもついていくよ。他のプロハンターを連れていく暇はないでしょ」
俺一人で――ザガンと一緒なら、なんとかなるはずだ。
『我が王、学校が集団パニックです! 人手は多いほうが……!』
そうか。きらりだけ守ればいいわけじゃないよな……。
「魔王関連でも、付いてきてくれるか?」
「そのために強くなったようなものだよ」
マヒルも杖を持ちながら、片手で俺の手を握る。
いつもの、登下校するときの瞬間移動と同じ落ち着きが、俺を深呼吸させた。
「そうそう、ボクも強くなったし」
「オレの新しい装備の使いどころだな」
「僕だって、けが人を助けるくらいはできるしね」
全員の意思が、伝わってきた。
赤点を取ったのが朝日と楓だけだったので、教室に他の人間はいない。
宇賀神ハンターも、おそらく下でブラブラ過ごしているだろう。
「巻き込んで――すまん」
「そういう話は、この魔王を倒し終わってから聞くね」
マヒルが微笑んだ。
説明する時間も、何もない。それでもみんな俺を信じてくれる。
俺は、全員の手を握り返すときらりの中学校へと、瞬間移動をした。




