第61話 結果をだした夜白
ダンジョンを出ると、何故か簡易的な受賞台のようなものが作られていた。
色々、慌てて取りそろえた感があるが、いつからこんな大事になったのだろう。
そもそもは、谷之が俺に勝手に勝負を持ちかけただけなのにな。
朝日はるんるんとアグニラの盾を持って、俺の隣に並んだ。
楓は、心なしか目つきがいつもより鋭い。おそらく時間が短くて、グラキエスの双刀でもっと切りたかったのだろう。狂戦士化はしばらく続きそうだな。
ただ一人、足元がもつれそうに歩いているのが谷之だ。なんで仕掛けておいて、そんなになってるんだ。
E級ジョブなんかに負けるかって、そうとう焦ったんだろうな。
なんだか哀れになってきた。
谷之担当の桜井ハンターと、朝日の担当のハンターは戻ってきているがあと三人は戻っていない。
DCAの制服をきた大人たちが、配信画面を見ながら頭を突き合わせている感じ、俺の魔石と楓の魔石は拾い切れていないのだろう。
「楽しかったね~なんだかんだ」
「オレはあいつ見てないから、どのくらいあるのか分からんが」
「ボクより少ないはず! 大丈夫」
まだ時間がかかりそうだ。
楽し気に会話する朝日と楓を見ながら、俺はその場を抜けようと――した。
楓にがっつり肩を掴まれて、阻止されたが。
「どこにいく夜白」
「喉が渇いたな~って思って、水を買いに」
「さっきカフェオレ飲んでたじゃん!」
「だからこそ、水が飲みたいんだ」
不毛ないい争いに、背後の人ごみがどっと受けた。
何も面白いことは言ってないのに。
『勝負結果を気にしなすぎですぞ』
どう考えても、俺は負けないだろう。
勝負にかかっているのは朝日の体なわけで、さすがにギリギリなら俺だって焦るが。
「結果を発表する前に、まだ楓選手の魔石と夜白選手の魔石がとり終わってません。もうしばらくお待ちください」
メガホンでDCA職員から通達があり、観客の多くは頷いた。
が、谷之は予想通りキレた。
「なんや、何のための時間制限やと思ってるんや。時間過ぎたら、それはアウトやろ!」
ダンジョンから、アサシン系プロハンターの四谷さんが上がってくる。やはり一か所に置くようににした結果だろう。
その後ろから、楓担当のタンクの人も出てきた。
やはり一番大変なのは宇賀神ハンターみたいだな。
「じゃあ、いいですよ。ここまでで。宇賀神ハンターにも戻ってもらって、残った魔石はDCAに迷惑料として渡しますので」
ざわっとしたのは野次馬だけではない。
DCAサイドの職員たちもだ。
なにせ、騒動のほとんどは谷之のせいなのだが、この人ごみはおそらく俺の配信を見ている人たちだし。
谷之が言い出したことにせよ、DCAが全面協力してくれたわけで。
俺がとった魔石も一部は宇賀神ハンターに渡すつもりだ。
「ほ、ほんとうにそれでいいんですか、夜白くん」
「はい、いいです」
メガホンの人が電話をしてなにやら話し込むと、桜井ハンターと、朝日の担当だったハンター。警備をしていた一部の人たちが、リュックを抱えてダンジョンに突撃していった。
まだこの時間ならリポップまでゆとりがある。人海戦術のほうが早いもんな。
四谷ハンターも、宇賀神ハンターの既に詰めたリュックだけ、取りにいっていた。
『宇賀神ハンターはそのままダンジョンに残るようですな。万が一もありますし賢明な判断でしょう』
四谷ハンターと宇賀神ハンターのぎゅうぎゅうのリュックを見て、谷之が青ざめる。
谷之のリュックと比べて、数える前から勝敗は決まっているな。
DCA本部だと大量の魔石を数える機械があるらしいが、重たいのと普段使っていないとのことで、体育祭のお手玉を数えるように、魔石のカウントダウンは始まった。
「いーち、にーい」
観客参加型になって、カウントが進む。俺は周囲にさらに騒音迷惑がかかるんじゃないかと、ひやひやした。
――朱雀校Sランク剣聖、都内で渋滞と騒音の大迷惑。とかな。
『普通は数を気にするところ、変なところで気が回りますな。我が王』
だって、どう考えても数は勝ってるだろう。こんなカウントしなくても、ざざざっと数えればいいじゃないか。
『おそらく、ですがDCAは過去に魔王二人、アグニラやグラキエスを倒した我が王に、なんらかの報酬を渡したいと思っているのでは? 子供に任せるのかと、最初あの長官も言っておったではないですか。ここで、国がれっきとした強さを出すことで二度と谷之のような無謀なチャレンジャーを、出さないためのパフォーマンスかもしれませんぞ』
ふうん? ザガンも色々考えているな。
でも、直球で聞いてもあの長官が返事してくれるとも思えないし。そういうことにするか。
カウントは容赦なく進み、俺はDCAからの差し入れの水を飲みながら座っていた。
朝日はちゃっかり、自分の配信も始めていてそこで一緒にカウントダウンしている。
最初に魔石のカウントが終わったのは、やはり谷之だった。
トータル三十五個。
次が朝日で四十六個。
楓が九十個。
俺は百三十個という結果だ。
「こ、こんなん認めへん! 絶対なんか不正したやろ!」
目が血ばしっているが、この期においてそんなことを言われてもなぁ。
「じゃあ、俺は武器なしでいいからもっかい勝負するか?」
谷之が、ぐっと黙る。さすがにそこまでプライドがないわけじゃないのか。
「そ、そや! 俺の担当ハンターが手ェ抜いたんや! わざと拾わんかった魔石があったはずや! そうやないとこんな大差がつくわけない!」
はあ? 谷之はもうDCAには就職できないな……。
こんな有様をみたら、他のギルドからも声はかかるのか……?
桜井ハンターがこの場にいなくてよかった。
「嘘つくな!」
「拾う動画はみんな見てたんだぞ!」
やっぱりこういうときのための動画だったんだな。
街道からの野次が凄くて、唾をとばしながら何か怒鳴る谷之の声は聞こえなくなった。
なんだか可哀そうなやつだなぁ。
『何故そんな他人事なのですか』
いや、他人事だからね。
俺は、何か捨て台詞とバンダナを投げ捨てて走り去る谷之を見送った。
勝負に負けたのだから、魔石は置いていくんだろう。
こうして、谷之抜きの授賞式が終わり、谷之の魔石は三等分にして分けられた。
C級ダンジョンを楽しむのは、また今度ということになった。その時はマヒルや和成を連れて行こう。
夜、宇賀神ハンターの夕飯は豪華になり、ご機嫌なSランクハンターは言った。
「はっは、いやー夜白くんが最初十層目指してて焦ったよ。十層だと魔肉か魔石か半々だからね。気づいて進路変更したんだろ?」
う……もしかすると、危うく負けていたかもしれん。
十層行きの魔法陣、見つけなくて良かった。
『十層に行っても、余裕で我が王の勝ちだったと思いますが……』
俺ならともかく、朝日のリスクは避けたいだろ!
あー、行かなくて良かった。




