第55話 休日の夜白
ゴールデンウイーク最後の日になってしまった。
あれから魔王系は来てないな。
ザガンが俺のリュックに詰め込んでくれた、キマイラからドロップされた魔石は翌日買い取られたし。
ただ、せっかく七百万の大金を得たのに、誰も受け取ってくれなかったことがやや不満だ。
あれだけ戦ったんだから、分け前は必要だと思うんだけどなぁ。
「そしたら、なんか奢ってよね」 と言ったのは朝日だけで、あとのメンバーは普段の魔肉でも高級だから……と辞退された。
今日は、楓に渡しそびれていたグラキエスの双刀を渡す予定だ。
攻撃力10000と出ていたから、そのままC級ダンジョンで武器のお試しも兼ねるつもりだ。
本来ハンター科の一年には許可が下りないそうなんだけど、宇賀神ハンターもいるし俺ならもういいや……みたいな許可だった。
朝日も少し遅れて合流できると言ったが、マヒルと和成はゴールデンウイーク明けのテストに備えるという。
宇賀神ハンターはすっかりドライバーになってしまって、待ち合わせ場所まで送ってくれた。
しとしとと、雨が降っている中、実技服をリュックに入れてある。
轟滅黒剣は、宇賀神ハンターがいる手前、ちゃんとバッグに収納してある。まあ、置いておいても誰にも盗んだりとかできないけど。
いくらハンター科といえど、抜き身はね。
宇賀神ハンターによって施されたマスクとグラサン姿の俺だが、我ながら不審者にしか見えない。
『芸能人みたいですな』
おまえ、隠れてテレビ見るの禁止な。
ザガンのやつ、どんどん人間の俗世に染まっていく。
若者向きではない喫茶店にしたのは、楓のリクエストだ。この間の配信動画が伸びに伸びているらしい。二十パーセントほどは海外からのアクセスだという。
カフェオレを頼んで、俺は奥のソファに座った。
宇賀神ハンターはご苦労なことに、車内待機らしい。
大き目のワゴン車だが、宇賀神ハンターの体のサイズでは狭いだろうな。
『我が王はよくカフェオレを飲みますな』
ブラックでもいいんだけど、気分の問題だ。
店によって、というか個人によって分かりやすく味が変わるし。
ブラックだと物によっては豆を選ぶものもある。この店も何種類か選べるタイプだったので、面倒だからカフェオレにしたんだ。
サングラスを外すと、狭い店内がよく見える。
こっちにとっては都合のいいことに、店は空いていた。
『お、楓殿ですよ』
店内に来客がきたと思ったら、伊達眼鏡にマスク姿の俺と似た不審者と目が合う。
手招きする前に向こうも気づいて、すぐに俺の前の席に腰かけた。
「身バレしなかったか?」
「俺は送ってもらったし」
俺のカフェオレが届いて、楓はそのついでにキリマンジャロのブラックコーヒーを頼む。
なんだか、外に出るだけで毎度こうなるのか?
面倒くさいなぁ。
『でしたら、我が王も宇賀神ハンターを見習いますか?』
いや、それは勘弁して。やっぱり面倒でもいいです。
「朝日さんも、思ったより早めにつきそうって」
「そういやグルチャ見てなかった……」
「マジかよ、待ち合わせする人間が?」
車の都合、早めにつくのは予定通りだったしな。五時間とか言われない限りは、ザガンと何かしら話してたりして俺は結構暇をつぶせるからな。
「そうそう、これ。楓が使ってくれ」
リュックから取り出すようなへまはしない。特殊なケース袋は、グラキエスの双刀専用だ。
そのまま袋ごと渡すと、怪訝な顔の楓を見ながらカフェオレを飲む。
掴んだ楓は武器とすぐにわかったのか、外に出しはしなかった。が、いぶかしんだ顔は直らない。
「それ、この間のグラキエスのドロップ品だから」
「はあ!?」
「双剣だし、俺には魔剣轟滅黒剣があるし」
「はあ!?」
楓の大声で、店内から視線がくる。
声のボリューム下げてくれないかな。
『普通、突然魔王のドロップ品をいきなり渡されたらそうなります』
そうか?
便利ならなんでも構わないぞ。
『我が王の感覚は、一般とは違いますからな』
なんか、凄い言われようだな。
「おまっこれ、ほんっ……」
言葉に詰まる楓にコーヒーが届く。
少し落ち着いてくれ。
「……返す。予備で使えばいいだろ」
「いや、双刀使えないし」
「売るとか?」
俺は試しに、突っ返された特殊ケースの中に手を突っ込んだ。
……魔力が入らない。
おかしいな。俺の魔力は999999を超えているのだが。
鑑定をしてみると、グラキエスの双刀の持ち主情報が出た。そういえばアグニラの盾にもなんかあったな。
「登録者が楓で固定されたらしい」
「らしい!?」
「なんか鑑定で出た」
「なんかってなんだ!」
クールで落ち着きのある普段の楓はどこにいったんだ……。
轟滅黒剣は俺以外には重いが、専用ではない。ただ、宇賀神ハンターを先頭としてそうとうな筋力でも持ち上がらないせいで、俺しか使えない武器になっているだけだ。
朝日も、アグニラ装備を触るうちに専用の使用者登録にされてたから、ジョブの問題か触った時間か。
魔王武器シリーズ、なかなか不思議な特典があるな。
ちょっと実験してみたいが、壊しそうだからやめておこう。
「なに? 何の話?」
いつの間にか到着した朝日が、青ざめたり真っ赤になったりする楓と俺を覗き込んでいた。




