第52話 魔王と戦う夜白⑤
手ごたえは、確かにあった。
勢いあまってダンジョンの壁に刺し貫いたけど、轟滅黒剣には魔力をたっぷり流してある。
魔王グラキエスの絶叫が響き渡り、パーティーの皆の手が少し止まる。
《ぐああああああ! イグニス、卑怯なり……覚えておけ! あと魔王は……》
はいはい、あと二人だろ。引き算くらい余裕だ。
グラキエスの絶叫の余韻をスルーして、俺は轟滅黒剣を拾いにいく。
そこには青みの帯びたの双剣がドロップしていた。ちょうどいい、武器をなくした楓にやろ。
『攻撃力10000とでてますが、良いのでしょうか……?』
朝日のと同じか。四天王とやらも似たり寄ったりなんだな。
まさか、後で大人に徴収されたりしないよな……? 収納いれておこ。
あと、残るはグラキエスが呼び出したままの残りのキマイラだ。
このまま景気よくぶったおして終わりにしよう。
『我が王の前になると、魔王でも茶番ですな……』
俺のせいじゃないと思うぞ、今回は。
それよりグラキエスの魔力ぎりぎりまで、キマイラ召喚させてもっとレベリングすればよかったかなぁ。
「層の奥にいるキマイラは俺が倒してくるから、残りを頼む!」
マヒルたち、どのくらいレベルあがったかなぁ……。
F級最下層でレベル30いったんだから、50レベル越えちゃってたりして……。
『我が王、それではアビリティインストラクターの藤川を越えておりますぞ』
あれ、そうだっけ……。
『相手がキマイラとはいえ、30を超えた者のレベル上げにはかなりの経験値が必要ですぞ。大空ハンターや宇賀神ハンターのような高レベル者に麻痺をしておりますが、本来の藤川の45レベルは決して低くないのですぞ……我が王はご自身が999999越えのステータスをしているせいでお忘れでしょうが……』
ザガンがくどくど言うのを聞きながら、隅に残ったキマイラたちを屠る。
遠くからおーい! と大きな声が聞こえた。
この声は宇賀神ハンターだ。
魔王が死んで、特殊結界が壊れたんだな。
「ここでーす」
和成たちが、叫び返す。
俺は最後まで残っていた、朝日たちの手前のキマイラを刻む。
これで、この層にいたキマイラを一掃したな。
「無事だったんだな?! いきなりダンジョンに入れなくなって、君らの配信を見ていたんだが、ま――「配信を全員切れ!」
全国配信なのに、魔王と言いかけた宇賀神ハンターを遮って怒鳴る。
このことが世界にもれたら一大事とか言ってなかったか……?
感涙にむせぶ宇賀神ハンターは、それどころじゃないようで魔王のせいで――とそのまま吠えた。
皆もまずいのが分かって、寸前で配信を閉じたから情報の流出は防げたみたいだな。
「よぐやっだな、やじろぐん!」
全力で泣き始める宇賀神ハンターに、俺まで抱き着かれてしまい、汗でびしゃびしゃな服に顔をおしつけられる羽目になった。
でも、これだけ汗をかくまで特殊結界をどうにかしようとしてくれたんだな……。
文句をいうのはやめとこう。
さっきから宇賀神ハンターのスマホがずっと鳴っているが、出なくていいのかな……?
「みんな頑張ったな」
「一番は夜白だろ! 分かってても凄まじかったぞ、あの攻撃」
「僕なんて、杖でキマイラをペコペコ殴るだけで、戦力外でごめんね……」
楓と和成が、それぞれ返事をしたが和成は少しへこんでいるようだ。
「でも、あの二人のけが人の対処は和成だったからこそだぞ! ハイポーションがあったにせよ、和成がいなきゃ手当できなかったんだからな」
「そうそう、魔力ポーションの配り方もよかったし、さすが後衛職って感じだったぞ」
マヒルに借りたハンカチで鼻をすすった宇賀神ハンターは、少し落ち着いたようだ。
スマホは鳴りっぱなしだったが、和成の頭をぽんと叩いた。
「配信で名前を聞き出してくれたから、所属ギルドもすぐ動けたし、病院側もすぐ救急車をだせた。よくやったな! 輸血中だそうだが、思ったより元気だそうだ」
「よかった……」
絡まりやすい和成の髪がぐしゃぐしゃになったが、和成は初めて嬉しそうに笑う。
宇賀神ハンターの体が離れたと思えば、今度はマヒルと朝日が抱き着いてきた。
「もーーー夜白くんいなきゃ全滅してた! ありがとう!」
「そうだよ、ヤシロ! 魔物が止まらなくて内心どうしようかって思ってたもん」
おお……俺的にはもっとレベリング! と思っていたが、結構限界だったらしい。
あれで止めて正解だったのかな。
そもそも……俺がいるから狙われたのにな。
「みんな、ほんとによく頑張ったな」
マヒルと朝日の頭を撫でていたら、俺のスマホも鳴り出した。
「DCA長官だ。配信は見たよ、完勝だったようだが、宇賀神ハンターが電話にでなくてね……。ダンジョンに何故か入れなくなってから、宇賀神ハンターから救援要請がきたので何名か送ったんだ。君が面識あるのは、大空ハンターと桜井ハンターかな? そのまま事情聴取にうつるので、ダンジョンから出られるようなら、こちらの車に乗ってくれ。――それと、今回も日本を救ってくれてありがとう」
いつも上からだった長官から、お礼を言われるなんてな。
だが、せっかくのゴールデンウイーク合宿だったのに!
これから事情聴取か……。




