第32話 守りを覚えた夜白
エンペラーオークとはいえ、動きは遅い。
「待って、夜白くん! 飛びだしては――」
紫電烈閃――!
轟滅黒剣が、エンペラーオークの体を切り裂く。
紫の雷は、剣先に集まってまばゆく光る。
一体、二体と倒していくと、魔物の血があたりに迸った。
『我が王、ドロップ品を拾いますか?』
待て待て、今は人前が――。
「何をやっているんだ! タンクを置いて飛び出すとは……何を考えているんだ、君は!」
「あ、すいません。つい」
いつもの癖で、と言いかけて、慌てて黙る。
そうか、朝日やマヒルと戦うときの、ああいう感じでいけってことかな?
大空ハンターが怒鳴りながら前に来てくれたが、ちょっと邪魔だ。朝日ならともかく、この人大きすぎて視界が悪くなる。
『我が王、残りのハンターたちが危ないですぞ!』
そうか、エンペラーオークたちが恐れていたのは俺だから、俺が離れたらあっちに襲い掛かるのか。
ザガンがいて助かったな。俺の見えない視野を助けてくれる。
桜井ハンターが必死に壁となっていて、高坂ハンターが高熱の魔法を使っていた。それでも、一体倒すのにすごく時間がかかっている。
あっちをメイン軸にして、左右の敵を減らせばいいのか。
俺に押し寄せたエンペラーオークを足場にして、そこから桜井ハンターの前に飛ぶ。
右に左に、興奮したエンペラーオークの胴体を貫いて、俺は返り血を避ける。
「……信じられない」
「夢を見ているようだ――」
エンペラーオークの群れは悪夢かもしれない。
俺としては、魔石や肉があとで回収できるかが気がかりだ。ザガンには魔石をあげる約束したからな。
「夜白くん、君は一体……?」
「レベル2の剣聖ですよ」
大空ハンターが、桜井ハンターの逆を担当しているが、大丈夫だ。ここまで近づける予定はない。
「こうなったら桜井ハンターの魔法が使える説も信じそうだな」
どうなったら? 俺は今すごく剣聖らしいことをしているのに、何かおかしかったかな。
『我が王、エンペラーオークを倒せるものは限られておりますぞ!』
いや、高坂ハンターだって時間かければもっと倒せるはずだぞ。
『普通は、火力の高い人間が束になるのですが……』
はいはい、悪魔の語る人間なんてあまりリアリティがないぞ。
轟滅黒剣で氷刃嵐舞を撃つと、エンペラーオークの動きが鈍くなる。
ところどころが凍り付いた体は、狙いたい放題だ。
首を跳ね上げ、胴体を裂き、俺は血を避けて飛び回る。
『ハンターたちの周囲はだいぶ開けましたな』
そうだな、ザガン。やっぱり見えないままドロップ品を回収しておいてくれ。何故かみんな自失しているからな。
『それは我が王のせいでは……』
俺は普通に戦ってるだけだ。剣聖として。
轟滅黒剣のスキルに助けられてるな。
不動剣も使ってみたけど、少しスピードがあがるだけだった。
「夜白くん! どこまでいくんだ!?」
大空ハンターが大声を出す。
皆さんは、じりじりと逆サイドの魔法陣に移動している。あっちが一層に戻る魔法陣か。
「勿論、全部倒します」
何せ、俺のせいだからね……。
十層だけSランク難易度だと、今後このA級ダンジョンに人がこなくなってしまう。
さすがに責任とれないし、人が狩りにこないと魔物氾濫が起きてしまうからな。
「なんてこった……我々は、一体倒せるかどうかを見るだけのつもりだったのに……」
え? 一体倒せば良かったの? 初耳すぎる。
『我が王、よそ見は危険ですぞ』
エンペラーオークの中に再び突入する俺に、ザガンが突っ込む。
分かってるよ、ちょっと初耳な事案を聞いてびっくりしただけだ。つまり、俺、すでにやりすぎ――ってこと?
『我が王は大体が、やりすぎでしょうに』
そうかー、これがやりすぎか……。今度から何体なのか、聞いておこうっと。
でも、今更へこへこ戻ってきても、いや片付けろよってなるよなぁ。
「紅蓮一閃!」
俺がスキルを発動させるのに合わせて、ザガンが近距離のエンペラーオークの足を吹き飛ばす。
ともかく、ハンターたちのほうになだれ込ませないように気を付けないと。
とどめをさしに走りながら、俺とザガンは十層のエンペラーオークを徹底的に狩りに行ったのだった。




