第22話 スタンピードのど真ん中に落ちた夜白
このままだと、最下層に落ちるな。
一瞬で結界を張ったものの、落下が止まらないので風魔法でバウンドさせる。
「きゃっ……!!」
「……いき、てる?」
足元がようやくダンジョンの地面に触れた。どこを見ても魔物だ。
ここは、四十階層くらいか? 前にスルーした魔物たちだな。
おっと、あの落下をついてきた配信ドローンは三人分、俺の収納魔法に閉じ込めた。落下シーンからのいきなりの暗闇で申し訳ない。
「どうやら、地層ごと割れたらしいな。ここにそんな強い魔物がいたか……?」
「待って夜白くん……どうなってるの?」
「そうだよ、この景色……」
そうだな、見渡す限り魔物だらけだな。
普段なら俺のことを避けていく魔物たちも、興奮状態で取り巻いてる。結界張っておいて良かった。
『我が王、普通の人間の女性には刺激が強いのでは……? パニックをおこさないだけ、芯が強いですぞ』
そうだな。ザガンはとりあえず他の生徒の無事を確認してくれ。ついでに藤川もな。
オレンジ髪の橘や、ギャル火乃森はあんまり気にしなくていいけど。
『承知つかまつりました』
困った。風魔法は一瞬だったけど、この結界の説明に困った。
「これ、もしかして守護結界……?」
「ぼくじゃないよ、当たり前だけど。賢者のマヒルでもないの?」
二人の視線が魔物から離れてこっちを向く。
ああ……ごまかしようがないな。これは。
「実は――魔法が使えるんだ」
俺は、結果としてほぼ全部を話した。
魔物氾濫のただ中なので、上級魔法を幾つか乱発しながら。
前世が大賢者だったことを始めとして、実際の隠蔽していないステータスも見せる。
そうじゃないと錯乱したと思われるからな。
『結界の中に居て、上級魔法を目の前に見ていたらさすがに信じますぞ!――我が王、上は皆無事でしたぞ。心配しておりました』
早かったな、ザガン。
つっこみは余計だ。
「えーと、夜白くんが前世、大賢者……」
「ステータスがほぼ999999……」
防御だけ薄いけどな。
目が少しうつろ気味だった二人の前で、インフェルノブレイズを撃つ。灼熱の業火が、大量の魔物を巻き込んで飲み込んだ。
こうなると、コントロール型じゃなくて助かるな。
「……信じるよ。夜白くんを信じる!」
「ぼくも! だって目の前で魔法使ってるんだもん。信じるしかないよね」
「ありがとな」
笑うと、何故か二人がはにかんだ。
何故か頬が赤い気がする。……風邪か?
『我が王、そこは空気を読んでくだされー! ここで「風邪?」じゃないですぞ!』
じゃあなんなんだ。
おっさんに美少女の機微は分からないよ。
『あれだけ劇的にかっこよく助けられたのです。現在進行形で! 普通は惚れます』
馬鹿を言うな。かっこよくしたかったら、そもそもうっかり落ちるなんてミスはしない。
『我が王は……そういうところが……残念ですな』
召喚やめたろか、こいつ。……という冗談は置いといて。
魔物の進軍が終わらない。
原因は何なんだ。まったく。生徒を危険にさらすダンジョンなら、学校の管理が甘いぞ。
「……参ったな。いったんダンジョンボスを倒すしか道がない。このままだと上の皆のところどころか、学校が破綻する」
「……倒せる?」
マヒルにそんな不安そうな顔をされるとは。俺のステータスもまだまだだな。
S級ダンジョンの魔物氾濫なら、少々手ごたえがあるかもしれない。
「勿論。まずは二人を安全な場所に――」
「待って。邪魔にしかならないのは分かってるけど、上も安全じゃないんでしょ? だったらぼく、一番安全な……ヤシロの側にいたい!」
「わ、私も!」
結界を作ったまま戦うのは別に負担ではない。
ただ、危険な最奥に行って二人が怖くなきゃいいんだが。
ザガンに上に連れていかせようと思ってたけど、上で不安なまま待たせるよりは――信じてくれた俺の側に居てもらうか。
「わかった。結界の中は安全だ。なんなら適当に攻撃していれば俺が仕留めるから、経験値稼ぎしててくれ」
「さすがにそんな余裕は……」
「マヒル、やろう! ぼくらしか見れない世界にせっかく行くんだもん! たとえ当たらなくても」
朝日がマヒルの手を握る。そして空いてる手を俺の手に乗せた。
――ふいに触られるとドキッとするな。
朝日の意気込みは、俺への信頼に直結している。
改めて誓おう、絶対にこの二人を守ると。
「よし、じゃあ三人で最下層に行こう」
断裂したダンジョンの崖に戻ると、俺は二人の手を握ったまま再度落下を開始した。
――魔物で埋め尽くされた、最下層へと。




