第十七話 キレかける夜白
マヒルは装備していたリュックもなかった。長時間の実技、水筒やタオル、予備の着替えなどが入っていたはずだ。
手にしているのは、杖ただ一つ。
「事情を一から話してもらえるか?」
朝日が差し出した水筒にお礼を言いながら、マヒルは語りだした。
配信の最中は、美琴も橘逸平もSランクすごすご!と一緒に配信画面に入り込んだりしてきたらしい。
ただ、それぞれの配信が進むにつれ「なんで魔法で倒さないの?」「余裕がありますね~Sランク」 と言いながらマヒルを映していたらしい。
奴らに好都合なコメントとユーザーが集まって、それによってマヒルの配信も荒れた。
配信している最中も、ストレスで胃が痛かったらしい。
そこに、配信を切れという合図が来て橘の木の槍をまともに食らったと言う。
美琴は直接は手を出さなかったものの、転んだマヒル目掛けて火魔法を浴びせたようだ。それをよけて、マヒルはダンジョンの床の凹凸で腕を痛めた。
よけきれなかったファイヤーボールがリュックに引火し、慌てて捨てた荷物は蹴とばされどこかへ消えた。マヒルはそれより、傷の痛みとショックで何とか逃げ出したそうだ。
……やっぱりあいつら殺すか。
生かしておいて、じわじわあぶるには弱すぎるからな。レベル1なんて、吹き飛ぶのは簡単すぎる。
マヒルが何をした? 勿論あのクズたちの意見も聞けというなら聞く。
だけど、スライムにもできないこの仕打ちは、明らかに人間のものだ。
「なにごとだ?」
小走りに藤川が来た。
アビリティインストラクターの癖に随分遅いじゃないか。お前も焼くか?
『乱心してはなりません、我が王!』
分かってる、お前は後から煮てやる。
『処理方法を変えてほしいわけではないです、あとそれがしはとばっちりですぞ』
うるさいなぁ、ここまでキレてるのは前世ぶりだけどまだ冗談は言えるんだよ。
そうでもないと、今すぐ正体不明のまま暗殺しちゃうだろ。
大賢者の能力を使えばそんなの簡単だ。前世でやったことあるし。
「あの、実は……」
マヒルが同じ話を藤川に話す。俺はなんて馬鹿なんだ、つらい話を繰り返させるなんて。
ただ、藤川と一緒に聞いたら暴発して藤川を四散させてたかもしれん。
朝日が、マヒルの背を撫でながら少し涙ぐむ。
『しかし、我が王。何故マヒル殿は、我が王から渡された魔力を使わなかったのでしょう』
俺が、マヒルの魔力にすり合わせるのを忘れたからだ……。
実技に行く前に、少しでもマヒルの魔力の残滓を俺が吸収して覚えておけば、波長を慣らすことはできたのに……!
「……事実なら看過できないことだな、それは」
は?
藤川の言葉に、一瞬血が沸騰する。……待て、まず怒っていいのはマヒルだ。第三者の俺じゃない。
「でも、あの時は配信を切ったあとだったんです!」
マヒルが声を振り絞る。
「だが、橘と火乃森がやったと自認するまで、証拠がないと学校としては……」
「ぼく思ったんだけど、過去のS級ジョブを引いた人たちにはそういうトラブルがなかったんですか!?」
「いや、最後に朱雀校にSランクジョブが出たのは十年前だぞ? 俺はその頃赴任どころかぎりぎり学生だったぞ!?」
そんなことはどうでもいい。ただの責任逃れだろうが。
……なんかザガンの距離が俺から遠ざかったな。
「甘いです、この制服の裏地、どうみても槍の回転した攻撃痕でしょう。剣ではこのねじれはありません」
俺の眼光がなぜか怖かったらしい。藤川が後ずさる。
そんな離れるな、近くでよく聞け。
「まず、グループを変えてください。俺がマヒルと朝日と組みます。美琴……火乃森は誠志郎とクラス委員で仲もいいし、トラブルもないでしょう。まずは最低限そこからです」
あとは、俺と組んだあとなめくさったことをしたら俺が今度こそ消し炭にする。
今度こそやる。目の前でやられて冷静でいられる自信がない。
「そ、そうだな。校長先生と、生徒指導の先生には話を通しておくから……ひとまず、な……?」
なんだか歯切れの悪い藤川のセリフに、配信ウォッチから授業終了の振動が鳴った。
今なら俺は、富士山の一つや二つ片手で灰に出来るな。




