第十六話 いじめにいらつく夜白
くよくよしても仕方ない。当分レベル1だが、出来ることは何かあるさ。
誠志郎も、苦戦しつつも一人でスライムを倒しているな。
スライム相手にポヨポヨやってるだけだが、何やら配信はそれなりに盛り上がっているようだ。
「ありがとヤシロ、ぼくの配信も初めて盛り上がってる」
「いや、それならいいんだ」
遠くからホイッスルの音が聞こえる。配信を切れの合図だ。
ひたすら配信をダラダラ流せるようになるのは、強くなってからだそうだが。当分レベル1の俺にはつらいことだな。
朝日も俺も挨拶をして配信を切る。一人盛り上がっていた誠志郎が気が付いていないので、仕方なく声をかけた。
「誠志郎、ホイッスルなったぞ」
「本当ですか?私には聞こえませんでしたが」
「ホントだよ、ぼくも聞いた」
朝日が言わないと信じないのかこいつ、まあいいけど。
仰々しい挨拶に移りこまないように俺はよけたが、朝日もそれに倣う。
ただ、スライム倒しは継続なので引き続き俺は足の指でスライムで抑える。
ついでのように衝撃波でスライムを倒すの繰り返しに戻った。
「慣れてきたか?」
「う、うん。相変わらずヤシロが抑えてくれないと逃がしちゃうけど……ごめん」
「なにが?」
なにか謝られることがあっただろうか。
「ヤシロは強いのに、ぼくのためにスライム抑えててくれて……。ヤシロがいなかったらぼくはレベル上げもできなかったのに」
「ああ、気にするな。力の制御訓練になってる」
くすくすと朝日が笑う。
「ヤシロって冗談だが本気だかわからない言い方するよね。面白い」
「……俺は特に面白いことを言ったつもりはないんだが」
笑いのセンスはおっさんだ。
しかも朝日といてから冗談はいったつもりがない。
『我が王、規模が強すぎてギャグだと思われていますよ!』
そうなのか。ザガンのほうがお笑いに詳しいようだな。
笑いに強い悪魔とは。
「まあ、今月はこの班決めだからしばらくこのルーティンで……」
「夜白くん!」
後ろからマヒルの声がした。
振り返ると、木の杖をもったマヒルが汚れた姿でこっちに走ってくるのが見える。
「マヒル!? どうして」
鑑定が、マヒルの体力が半分を割っているのを知らせる。
おかしい。危険回避のためのサポート科の初級ポーションは全員もたされてる。
「マヒル、ポーション飲んで」
「ありがとう……私の、捨てられて」
は? 今なんて言った?
捨てられた? 何故そんなことに。
俺の使う予定がなかった初級ポーションを飲ませて、俺はあたりを見回した。遠くに楓チームがいるだけで他に人影はない。
「マヒル……チームは誰と」
「……橘くんと、美琴さん……」
あいつら、殺そうかな。
なんか煽ってくるオレンジ雑魚と、金髪ギャル女。俺の悪口は許せるし、マヒルの美形ぶりに焼くのも分かる。だが、こんな体力を削られてポーションを捨てられるのは異常だ。
大体、マヒルは魔法職にしては強い防御力がある。スライム相手ではびくともしないはずだ。
つまり、この汚れた姿は相当な力で殴ったり蹴ったりされないとこうはならない。
雷鳴穿てn……
『我が王、お待ちください! そんな古代魔法を放たれてはその階層そのものが消え失せてしまいますぞ』
まさか、さすがに仲間には結界を張るぞ?
『大量虐殺ではありませんか~我が王―!』
ザガンの泣き言で、少し落ち着いた。
クラスのほとんどは無関係なんだ、道連れにしてどうする。
「なぜ、七瀬さんがいるんですか? 自分のグループに戻ってください」
スライムで一汗かいていた誠志郎が、今頃マヒルに気が付いた。
が、空気おかまいなしの言葉に俺の視線が凍る。
這い寄ってきたスライムを、俺が殴り殺すと誠志郎はヒッと言った。
「藤川を呼んできてくれ、誠志郎。こなかったら剣ぶっ壊すと」
「なぜ私が……」
「行ってくれるよな?」
今度は左手を、ダンジョンの床に叩きつける。
ぼっこりと空いた穴が、誠志郎の足元まで広がった。
「ま、ついでですし? 私はクラス委員ですから?」
小声で何か言いながら、誠志郎はそそくさと出て行く。
「だいじょぶ?」
困惑していた朝日が、マヒルの実技服の汚れを払う。
……そうだ、朝日もいたんだった。気をつけねば。魔法使わないで良かった。
『我が王~!!』




