第十三話 人生の初めてを味わう夜白
アシスト科の教室に訪ねていく途中、俺は刺すような視線を味わった。
生産者たちからの無言のクレーム。だが、もう二度と破壊しないとはいえん、すまん。
ざわめきのせいで、花鈴が俺の前に先に出てきてくれた。
「すまん、花鈴。素材を手に入れたらって話したろ。これを渡しておこうと思って」
バケツに入れたミスリルを渡そうとすると、花鈴から押し殺した悲鳴があがる。
……なんだ?
「夜白―! これどうやったの?」
花鈴はそこであちこちをきょろきょろすると、俺の腕を掴んで歩き始めた。
なんだなんだ。
教材置き場に行くと、中でいちゃついていた男女を追い出した。
そして俺を掴んだまま、教材置き場の中に入り込んでしまった。
なんか誤解される光景が……。
人生二周目だが、男女で密室に押し込められた経験は初めてだ。
「で?? 何がどうやってミスリルを手に入れてるの?」
「えーっと、道で拾った?」
「そんなはずあるか! そもそもバケツで……って、このバケツも普通のバケツじゃないね? 魔力が出てる」
ダンジョンでミスリルを掘るときに出たくず石を加工したんだが、なんか変だったか?
『我が王~そのバケツはBランク等級ですぞ!』
ザガンに遠隔つっこみをされた。え? Bランクなの、この品質。鑑定してから渡せばよかった。
「出所は言えないけど、別に盗んだわけじゃない。ただ、手に入れる手段があったとしか」
「……剣聖の大ファンが送り付けてきたとか? なんにしろ、犯罪に加担してないなら、深くは聞かない。これで私は新しい武器作れる。……あとは夜白が破壊しなきゃいいんだけど」
「多分……保証はできない」
「してよ! そこは!」
はー、と花鈴がため息をつく。なんか呆れてるな。
「今後、この上のランクのアイテムが取れたら持ってくるけど、武器作れそうか?」
「上ってオリハルコン? レベル1でミスリル扱えるの、S級の錬金術師だから出来るんだけど……夜白には常識がないことは分かった。頑張ってレベルあげて、オリハルコンでも扱えるようにする」
花鈴の眼鏡が光る。
これは、ガチだな。
頑張ってレベルをあげてもらおう。作れば作るだけレベルがあがるわけだから、またミスリルとってこないとな。
ザガンに頼んで時間があれば、ミスリルも頼めるかな。ザガン、どう?
『オリハルコンは無理ですが、ミスリルならば私でも可能です』
よかった、それにしても初日から頼みすぎだな。召喚した悪魔を社畜にしないように気を付けよう。
「あ、花鈴。そうだ、すまん。これ、底までミスリルじゃないなんだ。いくつか魔法石も入ってるからどんどん練習で使ってくれ。あとは防具にもテキトーに回していいから」
「魔法石まで!? 付与も鍛えろってことね、やってやるわ」
花鈴のレベルがあがるのが楽しみだなぁ。生産系は戦闘職より上がりにくいらしいけど。
花鈴の魔力は30ある。俺がこうして持ち込めれば、花鈴の手助けにもなるな。
「それより、ここに居座るのまずくないか……?さっきか気になってるんだが」
「え? ああそうか。今度から先生にいって個室か空の教室借りるから」
花鈴はあまり気にしていないようだが、俺は男子だ。
案の定、教材置き場から出るときには人だかりが起きてしまった。
花鈴がバケツの上にハンカチを広げていたが、多くの生徒がそれをのぞき込んでいる。
まあ、気になるよな……。
俺は上機嫌な花鈴と別れて、自分の教室に戻った。
「どっこいってきたのー、夜白」
「うーんと、校内の散策?」
「広いんだから、迷子になって授業に遅れるなよ」
ふふん、安心しろ楓。この昼休み中に移動した場所はマッピング済だ。
和成はスマホでゲームをしていたらしく、マヒルはイヤフォンをして配信動画をチェックしていた。
「マヒル……ちょっといいか?」
人目のあるところでは渡したくないな……。そもそも、みんなで座っているのは端の席だ。
どうするか……結界魔法を張るか? それとも瞬間移動で連れ出して……。
「あ! なるほどねー。楓、連れしょんしよ、今行こう」
「は? 今までお前と連れしょんしたことなんて……そもそも連れしょん自体したことねえのに何言ってんだ」
イライラしだした楓を、和成がヒーラーとは思えない力で連行して教室を出ていく。
なんか、盛大に気をつかわれたような。
「どうしたの? 夜白くん」
「プレゼントがあるんだ……出来れば、その今つけてくれると嬉しい」
何も包装してないミスリルの魔力ネックレスが、今更恥ずかしい。
ザガンに優先して持ってきてもらえば良かった。
『今すぐ探してきましょうか、我が王』
『いや、いいから』
マヒルの視線を正面から受け取れずに、目線をそらしたまま魔力ネックレスを差し出す。
「これ、私がもらっていいの……?」
「マヒルにもらってほしくて……作ったんだ」
「作ったの!?」
マヒルの頬が赤くなる。
つられてこっちも恥ずかしくなってきた。落ち着け、俺はおっさんのはずだ。
「ありがとう……凄い綺麗! これ、銀じゃない……?」
「あ、素材はあんまり気にするな! 手持ちで作ったやつだから、高価でもなんでもないし」
「そうなの……? それにしてはすごく素敵だけど」
マヒルはネックレスをつけようとして、なかなかうまくつけられなかったが、それを手伝おうとはなぜか言えなかった。
マヒルの美人さには、シンプルなネックレスがより際立った。作ったときは物足らないかと思ったけど、全然アリだ。
前世含めて、女性にプレゼントしたことはない。弟子に物をやったことはあるけど。魔術書と魔法開発に人生かけてたからな。
「すごい似合ってる」
「ありがとう……なんか、急にクラスのみんなの魔力を感知できる気がする。夜白くんのおかげかな」
にこにことマヒルは笑う。
よくわからないが、俺は謎の達成感をかみしめていた。




