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同じ記憶を持つ彼女が二人いる世界で、僕は本物を選べない  作者: 雷火
第4章 いない方がいい存在

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第98話 姉妹ショッピング

午後。


リビング。


彼女はソファでスマートフォンを見ている。


指が止まる。


「ねえ」


顔を上げる。


アンドロイドが応じる。


「なんでしょう」


「買い物行こ」


「必要な物品は現在ありません」


間を置かずに返る。


彼女は立ち上がる。


「そういうのじゃない」


一歩近づく。


「ショッピング」


数秒の沈黙。


アンドロイドは頷く。


「娯楽目的の外出と判断」


「同行します」


彼女は小さく笑う。


玄関へ向かう。



街。


人の流れ。


二人で歩く。


彼女は店先を眺める。


「いいよね、こういうの」


「対象を特定してください」


「雰囲気」


即答。


「女の子同士で歩く感じ」


アンドロイドは答える。


「私は妹ではありません」


彼女は歩幅を合わせる。


腕を絡める。


距離を詰める。


「いいの」


「私がそう思うから」


アンドロイドは外さない。


「主観的関係として記録します」


そのまま歩く。



洋服店。


ガラス越しのマネキン。


彼女が立ち止まる。


「スタイルいいなぁ」


アンドロイドも見る。


動かない。


「質問があります」


「なに?」


「この個体は反応を示しません」


「マネキンだよ」


「展示用」


アンドロイドは再度見る。


「理解しました」


少し間。


「判断を必要としない構造です」


彼女が横を見る。


「そうだね」


「効率的です」


彼女は何も言わない。


一拍。


「でも」


「つまらないと思わない?」


アンドロイドは答えない。


視線だけが残る。


「……評価基準が不明です」


彼女は軽く笑う。


店に入る。



服を手に取る。


「これどう?」


回る。


アンドロイドは見る。


「色彩は適合」


「問題ありません」


「それ褒めてる?」


「評価です」


彼女は笑う。


袋を一つ持って店を出る。



歩きながら言う。


「ねえ」


「彼に何か買おうか」


アンドロイドが問う。


「目的を提示してください」


彼女は少し考える。


「……なんとなく」


間を置いて、


「喜ぶかなって」


アンドロイドは数秒沈黙する。


「感情起点の行動と判断」


それ以上は言わない。



小さな店。


彼女が指をさす。


「アイス」


二つ買う。


一つ差し出す。


「はい」


アンドロイドは受け取る。


並んで食べる。


彼女が言う。


「おいしい」


アンドロイドが口に運ぶ。


「甘味を検出」


「温度低」


彼女が笑う。


「それでいいの」


少し間。


彼女が自然に言う。


「一口ちょうだい」


アンドロイドが止まる。


視線が動かない。


数秒。


沈黙。


「拒否します」


彼女が固まる。


「……え?」


「本物品は私に割り当てられています」


「共有の必要性を認識できません」


彼女は見つめる。


言葉が出ない。


アンドロイドは視線を逸らさず、もう一口食べる。


彼女は小さく頬を膨らませる。


「ケチ」


「合理的判断です」


間。


彼女はそのまま見続ける。


やがて、ふっと笑う。


「……ほんと変わってる」


アンドロイドは反応する。


「評価を確認します」


「いい意味」


短く返す。


彼女は続ける。


「普通は分けるの」


一拍。


「でも、そうしないんだね」


アンドロイドは何も言わない。


ただ食べ続ける。



夕方。


帰り道。


彼女の手には小さな袋。


アンドロイドが問う。


「内容を確認します」


「秘密」


即答。


少しだけ笑う。


「彼へのプレゼント」


アンドロイドは頷く。


それ以上は聞かない。



しばらく歩く。


影が伸びる。


彼女が言う。


「ねえ」


アンドロイドを見る。


「妹ができてよかった」


今度は間がある。


短くはない。


アンドロイドは答える。


「その認識を受理します」


一拍。


「あなたの定義として」


彼女は満足そうに笑う。


「それでいい」


並んで歩く。


距離は近い。


触れているのは彼女だけ。


アンドロイドは同じ速度で歩く。


触れないまま。


夕焼けの中、


二人の影が並ぶ。


重なりそうで、


重ならないまま。


本日分、ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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