第98話 姉妹ショッピング
午後。
リビング。
彼女はソファでスマートフォンを見ている。
指が止まる。
「ねえ」
顔を上げる。
アンドロイドが応じる。
「なんでしょう」
「買い物行こ」
「必要な物品は現在ありません」
間を置かずに返る。
彼女は立ち上がる。
「そういうのじゃない」
一歩近づく。
「ショッピング」
数秒の沈黙。
アンドロイドは頷く。
「娯楽目的の外出と判断」
「同行します」
彼女は小さく笑う。
玄関へ向かう。
⸻
街。
人の流れ。
二人で歩く。
彼女は店先を眺める。
「いいよね、こういうの」
「対象を特定してください」
「雰囲気」
即答。
「女の子同士で歩く感じ」
アンドロイドは答える。
「私は妹ではありません」
彼女は歩幅を合わせる。
腕を絡める。
距離を詰める。
「いいの」
「私がそう思うから」
アンドロイドは外さない。
「主観的関係として記録します」
そのまま歩く。
⸻
洋服店。
ガラス越しのマネキン。
彼女が立ち止まる。
「スタイルいいなぁ」
アンドロイドも見る。
動かない。
「質問があります」
「なに?」
「この個体は反応を示しません」
「マネキンだよ」
「展示用」
アンドロイドは再度見る。
「理解しました」
少し間。
「判断を必要としない構造です」
彼女が横を見る。
「そうだね」
「効率的です」
彼女は何も言わない。
一拍。
「でも」
「つまらないと思わない?」
アンドロイドは答えない。
視線だけが残る。
「……評価基準が不明です」
彼女は軽く笑う。
店に入る。
⸻
服を手に取る。
「これどう?」
回る。
アンドロイドは見る。
「色彩は適合」
「問題ありません」
「それ褒めてる?」
「評価です」
彼女は笑う。
袋を一つ持って店を出る。
⸻
歩きながら言う。
「ねえ」
「彼に何か買おうか」
アンドロイドが問う。
「目的を提示してください」
彼女は少し考える。
「……なんとなく」
間を置いて、
「喜ぶかなって」
アンドロイドは数秒沈黙する。
「感情起点の行動と判断」
それ以上は言わない。
⸻
小さな店。
彼女が指をさす。
「アイス」
二つ買う。
一つ差し出す。
「はい」
アンドロイドは受け取る。
並んで食べる。
彼女が言う。
「おいしい」
アンドロイドが口に運ぶ。
「甘味を検出」
「温度低」
彼女が笑う。
「それでいいの」
少し間。
彼女が自然に言う。
「一口ちょうだい」
アンドロイドが止まる。
視線が動かない。
数秒。
沈黙。
「拒否します」
彼女が固まる。
「……え?」
「本物品は私に割り当てられています」
「共有の必要性を認識できません」
彼女は見つめる。
言葉が出ない。
アンドロイドは視線を逸らさず、もう一口食べる。
彼女は小さく頬を膨らませる。
「ケチ」
「合理的判断です」
間。
彼女はそのまま見続ける。
やがて、ふっと笑う。
「……ほんと変わってる」
アンドロイドは反応する。
「評価を確認します」
「いい意味」
短く返す。
彼女は続ける。
「普通は分けるの」
一拍。
「でも、そうしないんだね」
アンドロイドは何も言わない。
ただ食べ続ける。
⸻
夕方。
帰り道。
彼女の手には小さな袋。
アンドロイドが問う。
「内容を確認します」
「秘密」
即答。
少しだけ笑う。
「彼へのプレゼント」
アンドロイドは頷く。
それ以上は聞かない。
⸻
しばらく歩く。
影が伸びる。
彼女が言う。
「ねえ」
アンドロイドを見る。
「妹ができてよかった」
今度は間がある。
短くはない。
アンドロイドは答える。
「その認識を受理します」
一拍。
「あなたの定義として」
彼女は満足そうに笑う。
「それでいい」
並んで歩く。
距離は近い。
触れているのは彼女だけ。
アンドロイドは同じ速度で歩く。
触れないまま。
夕焼けの中、
二人の影が並ぶ。
重なりそうで、
重ならないまま。
本日分、ここまで読んでいただき、ありがとうございます。




