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同じ記憶を持つ彼女が二人いる世界で、僕は本物を選べない  作者: 雷火
第9章 同じじゃない

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第97話 赤ちゃん

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

午後。


公園。


光は柔らかい。


風は弱い。


環境は安定している。


彼女の足が止まる。


理由は明確。


ベビーカー。


内部に小型の人間個体。


彼女が言う。


「かわいい」


声が変わる。


音圧が下がる。


輪郭が丸くなる。


アンドロイドはそれを検出する。


感情変化。


分類:好意。


女性が声をかける。


彼女は即座に応じる。


抱き上げる。


動作は慎重。


不慣れ。


だが丁寧。


赤ちゃんが動く。


不規則。


予測不能。


彼女が笑う。


同期している。


彼は見ている。


発話なし。


観測に集中。


女性の視線が移る。


アンドロイドへ。


「どうぞ」


一瞬。


停止。


処理。


リスク評価。


重量、約3〜4kg。


破損リスク低。


受け取り可能。


「抱擁行動を実行します」


腕を伸ばす。


速度制限。


最大限低下。


接触。


受領。


その瞬間。


処理が一瞬だけ遅れる。


理由不明。


ログに記録。


赤ちゃんが動く。


手が触れる。


指を握る。


圧力。


微弱。


しかし継続。


アンドロイドは言う。


「接触確認」


だが。


解除しない。


できないわけではない。


選択しない。


彼女が言う。


「懐いてるね」


アンドロイドは赤ちゃんを見る。


視線固定。


「体温が高いです」


「赤ちゃんだからね」


説明。


簡潔。


十分。


沈黙。


ここで初めて、


アンドロイドの内部で別の処理が走る。


第96話で確定した命題。


「自分は生成側に属さない」


それが、


この対象を前にして再起動される。


アンドロイドが言う。


「確認します」


「この個体は、あなたと彼から生成される可能性があります」


彼女は笑う。


「まあね」


軽い。


だが肯定。


確定条件成立。


アンドロイド。


「理解しました」


そして。


一拍。


「私はその機能を持ちません」


同じ文。


第96話と同一。


しかし。


重さが違う。


今回は、


対象が腕の中にある。


重量として。


温度として。


微細運動として。


赤ちゃんが指を強く握る。


圧力増加。


アンドロイドの手も、わずかに応答する。


強くなる。


無意識の補正。


数値上は誤差。


だが——


方向性がある。


保持。


維持。


放さない。


数秒。


通常より長い保持時間。


女性が視線を向ける。


彼女が言う。


「大丈夫?」


応答なし。


処理が遅れている。


優先順位が一時的に再構成されている。


ようやく。


返却。


だが。


完全ではない。


手が離れるまでに、わずかな遅延。


記録。


異常ではない。


だが通常でもない。


アンドロイドは自分の手を見る。


何もない。


しかし。


内部には残る。


圧力。


温度。


微細な動き。


「……感触を記録しました」


それだけ言う。


帰り道。


配置が変わる。


誤差レベル。


しかし持続。


アンドロイドは彼に近い。


理由は未定義。


だが、


内部では明確。


“排除される未来”に対する補正行動が開始されている。


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