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同じ記憶を持つ彼女が二人いる世界で、僕は本物を選べない  作者: Laica
第7章 記録では測れないもの

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第84話 日常の小さな事件

挿絵(By みてみん)

学校帰り。


いつもの道。


陽が傾き、影が長く伸びている。


「少し遠回りするか」


僕が言う。


「了解です」


彼女は短く答える。


歩き出す。


コンビニ前。


子供たちがじゃれ合っている。


押して、避けて、笑う。


彼女が立ち止まる。


「反応速度に個体差」


「予測不能な軌道」


小さく分析する。


僕は笑う。


「なんでも観察だな」


「記録対象です」


すぐに歩き出す。


さっきより、視線の動きが速い。


数歩進んだところで、


小さな影が飛び出す。


猫。


車道へ向かう。


「っ」


考える前に体が動く。


手を伸ばす。


抱き上げる。


「危なかった」


猫が腕の中で鳴く。


軽い。


温かい。


彼女が横に来る。


距離が近い。


「危険回避行動を確認」


「反応速度:良好」


僕は笑う。


「褒めてる?」


「はい」


即答。


彼女は猫を見る。


じっと。


「……」


一瞬だけ長く止まる。


「どうした?」


「生体反応を確認」


「小型」


「高温」


言葉は正確。


だが視線が外れない。


「触るか?」


僕が言う。


彼女はわずかに手を動かす。


止まる。


「接触は控えます」


理由は言わない。


そのまま視線だけ戻す。


僕は猫を道路脇に下ろす。


猫はすぐに走り去る。


「行ったな」


彼女は頷く。


「移動速度:高」


それ以上は続けない。


歩き出す。


少しして、


彼女が半歩だけ近づく。


さっきより自然に。


「どうした?」


「近距離測定中」


「またそれか」


僕は苦笑する。


彼女は続ける。


「この位置は」


間。


「安定しています」


僕は何も言わない。


そのまま歩く。


自販機の前。


人が並んでいる。


誰も順番を崩さない。


彼女が一瞬だけ視線を向ける。


「秩序維持」


小さく記録。


すぐに外す。


また歩く。


影がさらに伸びる。


その時。


彼女が止まる。


ごく短く。


「……」


「どうした?」


「先ほどの検知対象」


間。


「現在も保留」


僕は眉をひそめる。


「まだ言ってるのか」


「はい」


短い。


「でも分からないんだろ」


「はい」


肯定。


それ以上はない。


僕は少し考える。


周囲を見る。


特に変わった様子はない。


「気のせいだろ」


軽く言う。


彼女はすぐに動かない。


数秒。


それから頷く。


「暫定処理」


言葉は曖昧。


歩き出す。


また隣に来る。


距離は一定。


影が並ぶ。


同じ長さで伸びる。


しばらく無言。


そのまま進む。


ふと、


彼女の視線が一度だけ後ろに向く。


すぐに戻る。


何も言わない。


記録も出さない。


ただ、


歩く速度がほんのわずかだけ、


最初より安定していなかった。


本日分、ここまで読んでいただきありがとうございます。

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