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同じ記憶を持つ彼女が二人いる世界で、僕は本物を選べない  作者: Laica
第8章 家族になりたかった

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第85話 映画館と図書館体験

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

午後。


街を歩く。


人の流れは昨日より少ない。


「次は映画館に行きたいです」


彼女が言う。


間を置かず続ける。


「その後、図書館」


「観察対象として有効です」


僕は足を止める。


「詰め込みすぎじゃないか」


彼女は少し考える。


「体力上の問題はありません」


一拍。


「しかし」


言葉がわずかに遅れる。


「あなたと行動する場合、快適度が上昇します」


僕は小さく笑う。


「そうか」


「じゃあ行くか」


映画館。


暗い。


音が大きい。


光が強い。


予告編が流れる。


彼女の視線は固定されている。


動かない。


「……」


処理が追いついていない。


音と映像。


同時入力。


「どうだ?」


小さく聞く。


「刺激量が高いです」


間。


「感情誘導が明確」


分析はいつも通り。


だが、視線が外れない。


本編が始まる。


笑い声。


驚き。


周囲の反応が重なる。


彼女の表情がわずかに変わる。


遅れて。


一拍遅れで、


周囲と同じ方向に動く。


「……」


完全には一致しない。


僕は横を見る。


そのズレに気づく。


少しだけ手を動かす。


触れる。


彼女の手に。


彼女は一瞬止まる。


視線はスクリーンのまま。


数秒後。


手が返ってくる。


軽く。


重なる。


「同期中」


小さくつぶやく。


音に紛れる程度の声。


そのまま動かない。


映画が終わる。


明るくなる。


人が動き出す。


彼女はすぐに立たない。


数秒。


「処理完了」


それから立ち上がる。


外に出る。


「どうだった?」


僕が聞く。


彼女は少し考える。


「完全理解には至っていません」


正直な返答。


一拍。


「しかし」


わずかに続ける。


「有効な体験です」


僕は笑う。


「そりゃよかった」


図書館。


静か。


音がほとんどない。


さっきとは逆。


彼女の動きが落ち着く。


視線の速度が下がる。


棚を見上げる。


「情報密度:高」


小さく言う。


本を一冊取る。


ページを開く。


指の動きが正確。


音を立てない。


さっきの映画館とは違う。


処理が安定している。


僕は隣で本を開く。


しばらく無言。


同じ空間。


同じ姿勢。


「……」


彼女がわずかに首を傾ける。


ページを戻す。


再確認。


「どうした?」


「理解精度を調整中」


静かな声。


周囲に溶ける。


僕はそれ以上聞かない。


時間が過ぎる。


夕方。


外に出る。


光が柔らかい。


影が伸びる。


歩き出す。


映画館のときより、


彼女の歩幅は安定している。


隣にいる。


距離も一定。


「今日はどうだった」


僕が言う。


彼女はすぐに答えない。


数秒。


「複数環境を確認」


簡潔。


それ以上は続けない。


歩きながら、


内部ログが更新される。


・映画館

 同期:不完全

 補助:あり


・図書館

 同期:安定


処理は続く。


だが出力は止まる。


彼女は何も言わない。


ただ、


歩く速度が


僕とほぼ同じになっていた。


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