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同じ記憶を持つ彼女が二人いる世界で、僕は本物を選べない  作者: Laica
第7章 記録では測れないもの

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第76話 困惑

挿絵(By みてみん)

朝。


キッチンでトースターの音が鳴る。


チン。


彼女が皿をテーブルに置く。


「朝食を準備しました」


僕は椅子に座る。


「ありがとう」


トースト。


卵。


サラダ。


配置も色も、整っている。


僕は一口食べる。


「うん」


問題ない。


彼女が聞く。


「味覚評価をお願いします」


僕は少し考える。


言葉を選ぶ。


「普通」


コーヒーに手を伸ばす。


彼女は動かない。


「……普通」


小さく復唱する。


そのまま止まる。


「確認」


続きが出ない。


僕はカップを口に運ぶ。


「うん。普通でいい」


彼女はわずかに視線を落とす。


「質問があります」


「なに?」


「昨日」


間。


「あなたは」


「失敗してもいい」


「ほどほどでいい」


正確に再生する。


僕はうなずく。


「言ったな」


彼女は黙る。


すぐに続かない。


「……」


処理している。


だが結論が出ない。


「どうした?」


僕が聞くと、


彼女はゆっくり言う。


「成功時」


「人間は肯定的反応を示します」


「失敗時」


「否定ではない反応を示しました」


間。


「優先順位が確定しません」


僕は少し笑う。


「そんなきっちり決めるもんじゃない」


彼女は首をかしげる。


「決めない?」


「だいたいでいいんだよ」


僕はトーストをかじる。


「完璧じゃなくてもいいし」


「うまくいったら、それでいいし」


「ダメでも、まあいいかってなる」


彼女は沈黙する。


長い。


「……」


視線がわずかに揺れる。


固定されない。


「質問」


遅れて出る。


「私は」


一拍。


「どちらに合わせるべきですか」


僕はコーヒーを置く。


「どっちにも合わせなくていい」


彼女は動かない。


「しかし」


「基準が必要です」


僕は少し考える。


それから言う。


「じゃあ今のままでいい」


彼女を見る。


「困ってるだろ」


一瞬、間が空く。


「……はい」


わずかに遅れて返答。


僕は笑う。


「それでいい」


「困るってことは考えてるってことだ」


彼女は沈黙する。


「……」


処理が止まりかけている。


完全停止ではない。


だが滑らかでもない。


「困惑」


小さく言う。


自分でラベルを付けるように。


「処理継続中」


僕は立ち上がる。


「そのまま続けとけ」


「了解しました」


返答は通常通り。


だが、わずかに遅い。


僕が部屋を出る。


足音が遠ざかる。


静寂。


彼女はその場に立っている。


動かない。


テーブルの朝食。


手つかずのまま。


「……普通」


もう一度、つぶやく。


同じ言葉。


だが今度は少し長く止まる。


「失敗」


「成功」


並べる。


順序を入れ替える。


「ほどほど」


そこで止まる。


処理がつながらない。


数秒。


さらに数秒。


それでも結論は出ない。


彼女はそのまま、


もう一度だけ同じ言葉を繰り返す。


「……いい」


小さく。


確信はない。


だが、


否定もしなかった。


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