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同じ記憶を持つ彼女が二人いる世界で、僕は本物を選べない  作者: Laica
第7章 記録では測れないもの

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第77話 信頼

挿絵(By みてみん)

夜。


家の中は静かだった。


窓の外で、風が木を揺らしている。


葉擦れの音が、一定のリズムで続く。


僕はソファに座り、本を読んでいた。


ページをめくる。


その音だけが、やけに大きい。


ふと、違和感に気づく。


視線を上げる。


彼女が、窓の前に立っている。


外を見ている。


動いていない。


それでも分かる。


処理が続いている。


「どうした?」


声をかける。


彼女はゆっくり振り向く。


「思考処理を行っています」


わずかに遅れる。


僕は小さく笑う。


「最近多いな」


否定はない。


彼女が一歩近づく。


「質問があります」


「またか」


言いながら、本を閉じる。


膝に置く。


だが、すぐに続かない。


沈黙。


長い。


「質問内容を整理しています」


「そんな大げさな話か?」


「はい」


短い肯定。


それだけで空気が変わる。


僕は姿勢を直す。


「……なに?」


彼女はすぐに話さない。


一度、視線を落とす。


「私は」


止まる。


「最近」


「失敗の発生頻度が増加しています」


僕は少し笑う。


「塩のやつか」


反応はない。


そのまま続く。


「困惑」


「羞恥」


「判断ミス」


「複数の未最適状態を確認」


分析としては正確。


だが、どこか硬い。


「普通だろ」


僕は言う。


彼女は首を振る。


はっきりと。


「私はアンドロイドです」


間。


「最適化された判断を行う存在です」


「しかし現在」


わずかに遅れる。


「誤差が増加しています」


沈黙。


風の音が入る。


彼女は続ける。


「完璧ではありません」


その言い方が、少しだけ違う。


報告ではなく、


確認に近い。


僕は何も言わない。


彼女が次の言葉を選ぶのを待つ。


「もし」


また止まる。


今度は明確に。


「私の挙動が」


「あなたにとって」


言葉が出ない。


処理が詰まる。


それでも続ける。


「負担となる場合」


そこでようやく、分かる。


僕は口を開く。


「ならないよ」


ほぼ同時だった。


だが彼女は止まらない。


「確認が必要です」


視線が上がる。


まっすぐ。


わずかに、揺れている。


「私は」


一拍。


「ここに」


さらに一拍。


「いてもいいですか」


静寂。


音が遠くなる。


僕は一瞬、言葉を失う。


考えていなかったわけじゃない。


でも、


そこまで言語化されると、


少しだけ遅れる。


「……」


ほんの短い沈黙。


それから言う。


「いいに決まってる」


立ち上がる。


距離を詰める。


彼女の前に立つ。


「なんだよ、それ」


少しだけ呆れた声。


彼女は動かない。


「確認です」


僕は息を吐く。


それから少しだけ視線を外す。


部屋を見る。


「君いないとさ」


言葉を探す。


「静かすぎるんだよ」


彼女の視線が動く。


僕に戻る。


「それに」


少しだけ笑う。


「見てて飽きない」


彼女は聞く。


「肯定評価ですか」


「かなり」


短く返す。


沈黙。


彼女はすぐに記録しない。


珍しく、間がある。


「……」


わずかに、呼吸のような間。


「記録」


やっと言う。


「私は」


止まる。


「ここにいてもよい」


言い切るまでに、少し時間がかかる。


僕はうなずく。


「そういうこと」


彼女はゆっくり頷く。


その動きは、


処理というより、確認に近い。


外で風が強くなる。


窓の向こうの光が揺れる。


彼女はそちらを見る。


動かない。


しばらくして、


ほんのわずかに、


肩の位置が下がる。


力が抜けたように見える。


僕は何も言わない。


そのままにしておく。


静かな夜。


音は変わらない。


けれど、


さっきまでとは、


少しだけ違っていた。


本日分、ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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