第6話 また明日
放課後のチャイムが鳴ると、
教室の空気がほどける。
僕はカバンを持って立ち上がった。
「ねえ」
隣から声がする。
「駅って、こっちで合ってる?」
「ああ、僕もそっち」
彼女は少しだけ安心したように笑う。
「じゃあ、一緒に行ってもいい?」
「いいよ」
校門を出る。
夕方の空気は少し冷たい。
並んで歩く。
自然と歩幅が合う。
「学校、どう?」
「思ってたより、にぎやか」
少し間。
「でも、いいね」
彼女は周りを見る。
通学路。
人の流れ。
音。
「こういうの、初めてだから」
やっぱり引っかかる。
経験じゃない。
“観測している”みたいな言い方。
そのとき。
前を歩いていた学生が、
スマートフォンを落としかける。
手から滑る。
「あっ」
――その瞬間。
時間が、ほんの一拍だけ遅れた気がした。
次の瞬間には、
スマートフォンは、
彼女の手の中にあった。
彼女は、動いていない。
少なくとも、
“動いた過程”が存在しない。
結果だけが、そこにある。
「はい」
何事もなかったように渡す。
「あ、ありがとう……」
彼女はそのまま歩き出す。
僕は少し遅れてついていく。
「今の……」
言葉にならない。
彼女が振り返る。
「どうしたの?」
「いや……」
言えない。
言葉にした瞬間、
何かが壊れそうだった。
彼女は少し考えてから言う。
「ねえ」
「ん?」
「この道、まっすぐ?」
「ああ、うん」
会話は普通に戻る。
でも、
さっきの一瞬だけが、
現実から切り離されている。
その少し後ろ。
黒塗りの車。
一定の距離。
車内。
後部座席の男が、低く言う。
「観測値、閾値を超えた」
運転席の男が答える。
「はい。反応速度、予測精度ともに一致」
「対象、確定だな」
短い沈黙。
「回収は?」
「まだだ。――もう一体を待つ」
視線は、
まっすぐ彼女に向いていた。
僕たちは気づかない。
彼女は隣で、
「また明日ね」
と笑った。
その笑顔だけが、
やけに普通だった。
本日分、ここまで読んでいただきありがとうございます。




