第50話 初めてのエラー
午後。
研究室。
彼女の手が止まる。
「処理が停止しました」
空気が張りつめる。
ログ表示。
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感情解析エラー
原因:矛盾
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男性研究員が言う。
「内容は?」
彼女は答える。
「同一対象に対して」
「相反する感情が発生」
僕は聞く。
「対象って?」
彼女は迷わず言う。
「あなたです」
一瞬、沈黙。
「安心します」
僕は苦笑する。
「それはいいことだろ」
しかし彼女は続ける。
「同時に」
「不安が発生します」
男性研究員が言う。
「理由」
彼女は少し止まる。
処理中のような間。
そして言う。
「あなたが」
「悲しそうだからです」
空気が重くなる。
女性研究員が小さく言う。
「それ…」
男性研究員が続ける。
「人間の挙動だな」
僕は彼女を見る。
彼女は動かない。
ただ結果を待っている。
「結論は?」
彼は聞く。
彼女は答える。
「出ません」
「処理がループしています」
モニターを見る。
同じ解析が繰り返されている。
僕は言う。
「それでいい」
彼女がこちらを見る。
「いい?」
「うん」
僕は少し笑う。
「それ」
「エラーじゃない」
「人間はそういうもんだから」
彼女は沈黙する。
そして言う。
「では」
「この状態は正常ですか」
僕は答える。
「たぶん」
その瞬間。
男性研究員が低く言った。
「違うな」
僕たちは振り向く。
「それは」
彼は画面を見る。
「依存の初期状態だ」
空気が止まる。
僕は言葉を失う。
彼女は静かに立っている。
理解しているのか。
していないのか。
分からない。
ただ一つ確かなのは。
この瞬間。
彼女の中で何かが変わったということだった。
モニターにはまだ表示されている。
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処理状態
未解決
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そしてその未解決は、
簡単には終わらない。
本日分、ここまで読んでいただきありがとうございます。




