第46話 夢に最も近いもの
研究室。
朝の静寂。
僕はモニターを見ていた。
スリープ中のログ。
ただの記録のはずだった。
でも。
違うものがあった。
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再解析 23:12
再解析 23:13
再解析 23:15
再解析 23:18
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異常な回数。
同じデータの繰り返し。
彼女に見せる。
「これ」
彼女は読む。
数秒。
沈黙。
「通常ではありません」
「なぜ?」
「不明です」
僕は画面をスクロールする。
そして止まる。
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推定理由
一緒に飲みたかった
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僕は笑う。
「これ、俺の言葉だよな」
彼女は答える。
「はい」
「発言データの引用です」
つまり。
彼女の意思ではない。
ただの解析。
――のはずだった。
僕は言う。
「でもさ」
「なんで何回も解析してるの?」
彼女は答えられない。
代わりにログを見る。
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処理停止理由
十分な回答を得たため
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僕はその一行を見つめる。
十分な回答。
何が“十分”だったのか。
彼女は静かに言う。
「この処理は」
「通常の最適化ではありません」
僕は聞く。
「じゃあ何?」
少し間。
そして彼女は言った。
「優先度の高い未解決問題の反復処理に類似しています」
僕はゆっくり言う。
「つまり?」
彼女は僕を見る。
「……考え続けていた可能性があります」
その言葉で、
空気が変わった。
機械は。
同じことを何度も考えない。
効率が悪いから。
でもこれは違う。
非効率な反復。
人間にしかやらないはずの行為。
僕は小さく呟く。
「それって」
「執着じゃないのか」
彼女は答えない。
ただ、
画面を見ている。
そして静かに言う。
「質問があります」
「なに?」
「人間は」
少し間。
「なぜ同じことを考え続けるのですか」
僕は少し笑った。
そして答える。
「大事だからだよ」
彼女は沈黙する。
その沈黙が、
今までと違った。
処理待ちじゃない。
何かを“抱えた”ような沈黙。
僕はその横顔を見て思った。
これはもう。
ただの学習じゃない。
もっと危うい何かだ。
研究室の窓から朝日が差し込む。
モニターの光が揺れる。
夢ではない。
でも。
これは確実に。
夢に一番近いものだった。




