第44話 初めて研究所充電
研究所の扉が開いた。
夜だった。
帰り道から急いで戻ってきた。
彼女の歩く速度は、途中から明らかに落ちていた。
「残量は?」
僕が聞く。
彼女は一瞬だけ間を置いて答えた。
「7%です」
限界が近い。
研究室に入ると、女性研究員がこちらを見た。
「お、帰ってきた」
彼女の状態を見て、すぐに表情が変わる。
「早かったね」
僕は言う。
「バッテリーが……」
男性研究員がモニターを確認する。
「初日だ。消費モデルがまだ安定していない」
そして、少しだけ視線を細める。
「外に出すには、まだ早かったな」
その一言が、胸に刺さる。
女性研究員が軽く手を叩く。
「はいはい反省会はあと」
「まずは充電」
彼女の方を見る。
「初充電、いこうか」
アンドロイドは首をかしげる。
「充電」
「エネルギー補給。人間でいう“休息”に近い」
少し考えてから、彼女は頷いた。
「理解しました」
研究台の横。
医療機器のような充電装置。
彼女は静かに椅子に座る。
長い髪を持ち上げる。
首の後ろ。
小さな接続カバー。
――人間には存在しない場所。
女性研究員が僕を見る。
「接続して」
「君がやりな」
僕は一瞬ためらう。
でも。
手を伸ばす。
指先が、少し震えていた。
カバーを開く。
露出する端子。
それは機械なのに、
妙に“触れてはいけないもの”のように感じた。
ケーブルを差し込む。
カチッ。
小さな音。
彼女の体が、わずかに反応する。
モニターが起動する。
「外部電源接続」
「充電開始」
女性研究員が確認する。
「問題なし」
僕は聞いた。
「この状態って……」
男性研究員が答える。
「機能停止に近い」
「身体は動かない」
「意思表示も止まる」
そして、はっきり言う。
「簡単に言えば“電源を切る”のと同じだ」
僕は言葉を失う。
さっきまで、
隣で歩いていた存在が。
今は、
ただの“停止した装置”になる。
僕は彼女を見る。
「今の感覚は?」
彼女はゆっくり答える。
「……少し」
「眠い状態に近いです」
女性研究員が笑う。
「いいね、それ」
数秒後。
彼女のまぶたが閉じる。
完全に動きが止まる。
静寂。
モニターだけが動いている。
メモリ整理
行動ログ統合
感情解析
男性研究員が言う。
「内部は動いてる」
「人間でいう“無意識”に近い」
僕はその顔を見る。
眠っているようで。
でも違う。
「これって……」
僕は小さく呟く。
「生きてるって言えるのかな」
誰も答えなかった。
研究室には、
充電ランプの点滅だけが残った。
本日分、ここまで読んでいただきありがとうございます。




