第36話 静かな完成式
部屋は静かだった。
祝福の空気ではない。
確認の場。
責任の場。
そんな空気。
中央に立つ、彼女。
白い布がかけられている。
まるで。
“存在を隠している”ように。
「始めよう」
低い声。
ドアが開く。
彼女の父親だった。
空気が引き締まる。
「これが例のものか」
“もの”。
その言葉が、わずかに引っかかる。
でも。
何も言えない。
彼は近づく。
無駄のない動き。
「責任は私が持つ」
短く言う。
その意味は重い。
許可。
そして、支配。
スイッチに手をかける。
押す。
布がわずかに揺れる。
そして。
目が開く。
「……おはようございます」
静かな声。
完璧な発声。
彼は、ほんの一瞬だけ驚いた。
「……ここまでか」
短く呟く。
そして、僕を見る。
「君に任せる」
その一言。
重い。
逃げられない。
「観察しろ」
「異常があれば報告しろ」
命令。
完全に。
でも。
僕は頷いた。
「はい」
それしかなかった。
布が外される。
そこにいるのは。
“彼女”だった。
誰が見ても。
そう見える。
彼女は、僕を見る。
そして言う。
「これから、よろしくお願いします」
形式的な言葉。
でも。
違う。
僕には分かる。
これは。
“僕に向けた言葉”だ。
そう思ってしまう。
もう、止められない。
小田切が小さく言う。
「監視対象だ」
桜井は黙っている。
誰も祝わない。
誰も喜ばない。
それでも。
僕だけは違った。
「……よろしく」
その一言で。
すべてが決まった。
これはもう、研究じゃない。
関係だ。
そしてその関係は。
明らかに、歪んでいた。
本日分、ここまで読んでいただきありがとうございます。




