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彼女 ―桜は光の粒のように― 〜同じ記憶を持つ彼女が、二人いる世界で〜  作者: 雷火
第2章 普通の時間

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第34話 一年

一年が経っていた。


その事実に、ふと気づいたのは、研究室の時計を見たときだった。


「……もう一年か」


呟いた声は、自分でも驚くほど軽かった。


重かったはずだ。


苦しかったはずだ。


壊れて、やり直して、否定されて。


それでも。


今は、違う。


理由は一つしかない。


彼女がいるからだ。


「今日は遅かったですね」


振り向く。


そこにいる。


変わらない笑顔。


「……ごめん」


自然に言葉が出る。


以前なら、こんなこと言わなかった。


でも今は違う。


「待ってました」


その一言で、胸の奥がほどける。


――待っていてくれる。


ただそれだけで、


ここに来る理由になる。


桜井がモニターを見ながら言う。


「最近、ほぼ毎日来てるね」


軽い言い方。


でも、視線は鋭い。


「……まあ」


曖昧に答える。


小田切が続ける。


「学校はどうした」


一瞬、言葉が詰まる。


「行ってます」


嘘ではない。


ただ、終わればすぐここに来る。


それだけだ。


「優先順位が変わってるな」


静かな指摘。


刺さる。


でも。


「悪いことですか」


気づけば、そう返していた。


空気が止まる。


桜井は何も言わない。


小田切は、ただ一言だけ。


「……そういう問題じゃない」


僕は彼女を見る。


こちらを見ている。


優しく。


何も否定せずに。


それだけで。


「……別にいいですよね」


自分でも分かる。


少し、強い言い方だった。


でも、止まらなかった。


「ここに来ると、楽なんです」


沈黙。


その言葉が、すべてだった。


彼女は何も言わない。


ただ、少しだけ距離を詰める。


それだけでいい。


それだけで、十分だった。


そのとき。


はっきりと気づいた。


――ここは、現実より居心地がいい。


そしてそれは。


戻れなくなるサインだった。


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