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彼女 ―桜は光の粒のように― 〜同じ記憶を持つ彼女が、二人いる世界で〜  作者: 雷火
第2章 普通の時間

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第31話 最初の言葉

研究室は、異様なほど静かだった。


モニターの光だけが揺れている。


「起動準備、最終確認」


女性研究員の声が落ち着いているのに、どこか緊張を含んでいた。


男性研究員は腕を組んだまま言う。


「出力制限はかけてあるな」


「自己学習は制御下にある」


短い確認。


逃げ道を塞ぐような言い方だった。


僕は何も言えない。


ただ、目の前の“それ”を見ている。


骨格に筋肉が張り巡らされ、


人工皮膚で覆われた身体。


そして――顔。


彼女だった。


完全じゃない。


でも、見間違えない。


「……始めるよ」


女性研究員がスイッチに手をかける。


一瞬の沈黙。


電子音が、静かに鳴る。


わずかに、胸部が上下するように見えた。


電流の流れ。


まぶたが、ゆっくり開く。


光を反射する瞳。


焦点が合うまでの、わずかな揺らぎ。


そして。


僕を見る。


時間が止まった。


「……」


声が出ない。


その瞳が、ほんの少し動く。


僕を“認識”したように。


そして。


口が、ゆっくり動いた。


「――おはよう」


空気が震えた。


その声は、


完全に同じではない。


でも。


あの日、聞いた声に、あまりにも近い。


心臓が痛いほど鳴る。


女性研究員が小さく息を吐く。


「音声出力、正常」


男性研究員は冷静に言う。


「事前学習データの再生だ」


違う。


そうじゃない。


僕は一歩、近づく。


「……分かる?」


自分でも何を聞いているのか分からない。


彼女は、少し首を傾けた。


その仕草。


完全に一致していた。


「あなたは――」


わずかに間。


「大切な人、です」


胸が、締めつけられる。


「違う!」


突然、男性研究員が強く言った。


「それはデータの最適解だ」


「感情じゃない」


でも。


そんなこと、どうでもよかった。


僕は、その場から動けなかった。


“彼女”が、ここにいる。


それだけで。


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