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同じ記憶を持つ彼女が二人いる世界で、僕は本物を選べない  作者: Laica
第3章 君をもう一度、作る

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第29話 最初の骨格

挿絵(By みてみん)

低い駆動音が続いている。


ガラスの向こう。


大型プリンターが、ゆっくりと動いていた。


白い素材が積み重なっていく。


骨の形に。


「出力、始まってる」


女性研究員が言う。


モニターには設計図。


人体構造と、

それを元にした補正フレーム。


男性研究員が操作する。


一部のラインが書き換えられる。


「そのまま真似るな」


短い指示。


「負荷が分散できない」


女性研究員が肩をすくめる。


「でも崩しすぎると“それっぽさ”消えるよ」


「見た目は後でいくらでも調整できる」


男性は止まらない。


「まずは壊れない構造だ」


僕はモニターを見る。


線が変わる。


角度が変わる。


ほんのわずかに。


でも、


“彼女”から離れていく気がした。


「……それ」


思わず口に出る。


「変えない方がいいんじゃないですか」


二人の手が一瞬止まる。


女性研究員が僕を見る。


「理由は?」


「同じにしたいからです」


迷いはない。


男性研究員が言う。


「同じにすると、壊れる」


事実だけを置く言い方だった。


「人間の骨は最適じゃない」


「生きるための形であって、再現のための形じゃない」


僕はガラスの向こうを見る。


少しずつ出来ていく骨格。


まだ途中なのに、


もう“人の形”だった。


「じゃあ」


言葉を探す。


「違ったら、それは彼女じゃない」


女性研究員が軽く息を吐く。


「そこだね」


モニターを指でなぞる。


「どこまで寄せて、どこで割り切るか」


「それを決めるのが、今回の仕事」


男性研究員が一つのラインを戻す。


「ここは残す」


今度は別の部分を修正する。


「ここは変える」


完全な否定じゃない。


完全な再現でもない。


“選んでいる”。


僕は黙ってそれを見る。


プリンターの中で、


脚の骨格が形になる。


関節が組まれる。


指が伸びる。


女性研究員が小さく言う。


「ねえ」


視線は画面のまま。


「完成したとしてさ」


一拍。


「それ、本物って思う?」


僕はガラス越しに骨格を見る。


まだ何も入っていない。


ただの構造。


でも。


「思います」


はっきり言う。


「僕がそう思えば」


男性研究員が手を止める。


「それは認識の話だ」


振り返る。


「事実は別にある」


僕は答える。


「その事実、証明できますか」


少しだけ空気が変わる。


でも、


衝突は起きない。


男性研究員は短く言う。


「できない」


一拍。


「だから扱いを間違えるな」


否定ではなかった。


警告だった。


機械音が続く。


やがて、


プリンターが減速する。


停止。


カバーが開く。


中にあるのは。


白い骨格。


人間に似ている。


でも、


完全には一致していない。


「フレーム完成」


女性研究員が言う。


「ここから先は、段階二」


モニターに表示が出る。


PHASE 02


男性研究員が骨格を見る。


「これは器だ」


静かな声。


「何を入れるかで、別のものになる」


僕はそれを見つめる。


同じじゃない。


でも、


遠くもない。


「……これでいいです」


自然に出た言葉だった。


完璧じゃない。


それでも、


進める形だった。


女性研究員が小さく笑う。


「いいね」


「ちゃんと“選べてる”」


僕は骨格から目を離さない。


これはまだ彼女じゃない。


でも。


ここからなら、


届く気がした。


本日分、ここまで読んでいただきありがとうございます。

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