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彼女 ―桜は光の粒のように― 〜同じ記憶を持つ彼女が、二人いる世界で〜  作者: 雷火
第2章 普通の時間

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第24話 遺されたものの意味

数日が過ぎても、現実は変わらなかった。


教室の席。

帰り道。

公園のベンチ。


どこにも、彼女はいない。


でも、消え方が“綺麗すぎる”。


事故にしては、何も残っていない。


目撃証言も曖昧。

ニュースにもならない。


まるで――最初から存在していなかったみたいに。


放課後。


僕は、あの日と同じ道を歩いていた。


ポケットの中。


ぬいぐるみ。


あの時感じた違和感を、もう一度確かめる。


指でなぞる。


縫い目。


ほんのわずかに、硬い部分。


――切るしかない。


家に戻り、ハサミを手に取る。


躊躇はあった。


でも。


「……ごめん」


小さく呟いて、縫い目を切る。


中から出てきたのは。


小さな記録媒体。


指先ほどのチップ。


心臓が大きく跳ねる。


「なんでこんなものが……」


パソコンに接続する。


画面が開く。


フォルダが一つだけ表示される。


『FOR YOU』


クリックする。


動画ファイルが再生される。


画面に映ったのは――彼女だった。


『これを見てるってことは、たぶん成功してるね』


いつもの声。


でも、少しだけ静かだった。


『ごめんね。たぶん、私はもう君の前にはいない』


呼吸が止まる。


『事故じゃないよ』


はっきりと言い切る。


『そういうことにされるだけ』


手が震える。


『私は、元々こうなる予定だったの』


理解が追いつかない。


『でもね、全部嫌だったわけじゃない』


少しだけ笑う。


『君と過ごした時間は、本物だから』


画面の中の彼女が、まっすぐこちらを見る。


『だからお願い』


一瞬、間を置く。


『私を、残して』


胸が締め付けられる。


『データは全部入れてある』


『体の構造も、声も、動きも』


『全部』


あの研究所レベルの情報量。


一人の人間の、完全な記録。


『君ならできるって思った』


『だから、君を選んだ』


涙がこぼれる。


『これは命令じゃない』


『お願い』


そして最後に。


『もう一度、私と会って』


画面が止まる。


部屋の中は静まり返っていた。


僕は、しばらく動けなかった。


ただ、理解してしまった。


彼女は――


最初から“消える前提”で動いていた。


そして。


その先を、僕に託した。


僕は小さく呟く。


「……やるしかないだろ」


ぬいぐるみの残骸と、チップ。


そして、画面に残る彼女の最後の表情。


それが。


僕の“動機”になった。


本日分、ここまで読んでいただきありがとうございます。

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