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同じ記憶を持つ彼女が二人いる世界で、僕は本物を選べない  作者: Laica
第3章 君をもう一度、作る

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第25話 再現のはじまり

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

次の日。


学校には行かなかった。


行けるはずがなかった。


机の上。


チップが置いてある。


それを、ずっと見ていた。


「……一回だけ」


そう言ったのは、昨日の自分だ。


嘘じゃない。


ただ――もう戻れないだけだ。


パソコンを起動する。


チップを差し込む。


画面が開く。


昨日と同じフォルダ。


でも、その奥に、さらに階層があった。


構造データ。

音声データ。

行動ログ。


そして――設計ファイル。


「……本気かよ」


個人で扱う量じゃない。


研究機関レベルのデータ量。


でも。


中身は整理されていた。


“使う前提”で。


「……最初から、やらせる気だったのか」


誰もいない部屋で呟く。


返事はない。


あるのは、


データだけだ。


一つ、ファイルを開く。


骨格構造。


関節角度。


駆動制御。


細かすぎる。


人間の動きを、そのまま数値にしたような精度。


「こんなの……」


再現できるわけがない。


普通なら。


でも。


目が離れなかった。


次に開く。


音声データ。


彼女の声が流れる。


『おはよう』


手が止まる。


『ねえ』


『これ、おいしい?』


日常の断片。


記録された声。


ただのデータのはずなのに。


「……やめろ」


ウィンドウを閉じる。


呼吸が乱れる。


これは、


“再現”じゃない。


“呼び戻す”行為だ。


そんなこと、


できるわけがない。


できていいわけがない。


椅子にもたれる。


天井を見る。


何も変わらない。


何も戻らない。


「……」


沈黙。


数秒。


いや、


もっと長かったかもしれない。


やがて、


もう一度、画面を見る。


逃げ場はなかった。


「……全部は無理だ」


口に出す。


現実を確認するために。


「でも」


視線が、設計ファイルに戻る。


「一部なら……」


手が動く。


キーボードに触れる。


検索。


部品。


モーター。


制御基板。


現実に手に入るもの。


「……代替するしかない」


完全再現は無理だ。


だったら、


近づける。


それしかない。


設計図を横に置く。


市販パーツの仕様を並べる。


合わない。


ズレる。


精度が足りない。


「……くそ」


当然だ。


これは本来、


一人でやるものじゃない。


でも。


止まらなかった。


数時間後。


机の上には、


いくつものメモと、


開きっぱなしの画面。


仮の構成。


簡易フレーム。


最低限の動作。


“人間”には遠い。


でも。


“形”にはなる。


「……ここからだ」


誰に言ったのか分からない。


そのとき。


ふと、気づく。


音声データの再生が、


止まっていないことに。


スピーカーから、


小さく声が流れている。


『それ、違うよ』


手が止まる。


「……は?」


再生バーを見る。


ランダム再生になっているだけだ。


分かっている。


分かっているのに。


心臓が、嫌な音を立てる。


『そこ、もう少し右』


偶然。


ただの一致。


そう思いたかった。


でも。


カーソルは、


言われた通りの位置で止まっていた。


「……ふざけんな」


再生を止める。


部屋が静かになる。


さっきまでの声が、


嘘みたいに消える。


「……データだろ」


自分に言い聞かせる。


ただの記録。


ただの音。


意思なんてない。


あるはずがない。


それでも。


指は震えていた。


「……続き、やるか」


もう一度、画面を見る。


設計図。


部品リスト。


未完成の構造。


そして、


思い出。


全部が混ざっている。


境界が曖昧になっていく。


それでも。


止まらない。


止められない。


「……待ってろ」


小さく呟く。


誰に向けたのかは、


もう分かっていた。


僕は、


彼女を作り始めた。


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