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彼女 ―桜は光の粒のように― 〜同じ記憶を持つ彼女が、二人いる世界で〜  作者: 雷火
第1章 彼女は少しおかしい

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第12話 駅へ向かう帰り道

喫茶店を出ると、

外の空気は少しひんやりしていた。


駅前の通りには、

夜の明かりが並び始めている。


「今日はありがとな」


田中が伸びをしながら言う。


「久しぶりに遊んだわ」


佐藤も笑う。


ボーリングの話をしながら、

僕たちは駅へ向かって歩き出した。


しばらくして、

駅前の大きな交差点が見えてくる。


「じゃあ俺こっち」


田中が手を上げた。


反対側の道を指している。


「俺も」


佐藤もそちらへ向かうらしい。


「また学校でな」


二人は軽く手を振って、

人混みの中へ消えていった。


残ったのは、

僕と彼女だけだった。


さっきまでにぎやかだったのに、

急に静かになる。


駅へ向かう道を、

僕たちは並んで歩いた。


彼女は片手に、

ゲームセンターで取ったぬいぐるみを持っている。


「今日は本当に楽しかった」


彼女が言った。


「うん」


「ゲームも、ボーリングも、喫茶店も」


少し考えてから、

また笑う。


「全部初めてだった」


その言い方は、

やっぱり少し不思議だった。


でも、

うれしそうな表情だったから、


僕はそれ以上聞かなかった。


「また遊ぼう」


僕が言うと、

彼女はすぐにうなずいた。


「うん」


駅の光が、

少しずつ近づいてくる。


その少し後ろを、


黒い車が通り過ぎる。


音は、ほとんどしなかった。


信号の光が、


一瞬だけフロントガラスに映る。


中は見えない。


でも、


見られている気がした。


駅の入り口で、

彼女が立ち止まる。


「今日はありがとう」


小さく頭を下げた。


「こちらこそ」


僕がそう言うと、

彼女は少し照れたように笑う。


「じゃあまた明日」


そう言って、

彼女は改札の方へ歩こうとする。


そのとき。


「なあ」


気づいたら、声をかけていた。


彼女が振り返る。


「どうしたの?」


少しだけ迷う。


ほんの一瞬。


でも、やめなかった。


「お前さ」


言葉を選ぶ。


「なんか……」


うまく言えない。


でも、


ここで引いたらダメだと思った。


「お前さ」


少しだけ言葉を探す。


「……なんか、違うよな」


言ったあとで、


少し後悔する。


言いすぎたかもしれない。


彼女は、


しばらく何も言わなかった。


ただ、


こちらをじっと見ている。


その視線が、


今までと少し違って見えた。


「……そうかな?」


小さく笑う。


でも、


その笑い方は


どこか曖昧だった。


「よくわからない」


それだけ言う。


そして、


少しだけ首をかしげる。


「でも」


一歩だけ近づく。


「嫌だった?」


予想外の言葉だった。


「え?」


「私が変でも」


まっすぐ見てくる。


「嫌じゃないなら、それでいいと思う」


答えに困る。


でも、


なぜかすぐに出た。


「……嫌じゃない」


彼女は少しだけ笑う。


「よかった」


それだけ言って、


今度こそ改札の方へ歩いていった。


その背中を見ながら、


僕は思う。


彼女は少しだけ笑う。


「よかった」


それだけ言って、


今度こそ改札の方へ歩いていった。


その背中を、見ていた。


本日分、ここまで読んでいただきありがとうございます。


続きも読んでいただけたら嬉しいです。

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