第11話 喫茶店
ボーリング場を出るころには、
外は夕方から夜に変わり始めていた。
駅前のネオンが、
少しずつ明るく見えてくる。
「さすがに疲れたな」
田中が腕を回す。
「腕がもうダメだ」
佐藤も笑う。
そのとき。
「あれ」
彼女が通りの向こうを見る。
小さな喫茶店。
大きな窓から、
暖かい光がこぼれていた。
「ちょっと休む?」
田中がうなずく。
「いいね」
僕たちは店に入った。
ドアを開けると、
コーヒーの香りが広がる。
さっきまでの騒がしさが、
遠くに引いていく。
四人で席に座る。
メニューを開く。
「どれがいいと思う?」
彼女が聞く。
僕はケーキを指す。
「これ、人気らしい」
「じゃあそれ」
迷いがない。
選択が早すぎる。
注文して、しばらく。
ケーキが運ばれてくる。
彼女は一口食べた。
「おいしい」
もう一口。
――止まる。
完全に。
数秒。
視線が、ケーキの断面に固定される。
「どうしたの?」
彼女はフォークで指す。
「これ」
少し考えてから言う。
「同じもの、作れると思う」
「え?」
田中が笑う。
「すげーな」
彼女は首をかしげる。
「普通じゃないの?」
その言い方は、
“経験からの自信”じゃない。
“構造を理解した”みたいな言い方だった。
佐藤が苦笑する。
「いや……普通じゃないと思うぞ」
彼女は少しだけ考えて、
小さくうなずく。
「そっか」
でも、
視線はまだケーキに残っている。
まるで、
レシピじゃなく、
“結果”を再現しようとしているみたいに。
そのとき。
窓の外。
黒い車がゆっくりと通り過ぎた。
店内のガラスに、
一瞬だけ内部が映る。
男が二人。
無言。
視線は、
こちらに向いていた。
――すぐに消える。
誰も気づかない。
彼女だけが、
ほんの一瞬だけ視線を動かした。
気づいたのかどうかは、
分からなかった。
「今日、楽しかった」
彼女が僕を見る。
「僕も」
彼女は少しだけ笑った。
その笑顔は普通だった。
でも、
“何かを処理した後”みたいに静かだった。
本日分、ここまで読んでいただきありがとうございます。




