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同じ記憶を持つ彼女が二人いる世界で、僕は本物を選べない  作者: 雷火
第5章 さよならの最適解

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第119話 データの灯火

夜。


家は静かだった。


リビングの灯りだけが残っている。


彼と彼女はそれぞれの部屋に戻っている。


扉の向こう。


小さな生活音。


やがて消える。


完全な静寂。



アンドロイドは一人、リビングに立っていた。


ゆっくりと目を閉じる。


内部ログを開く。


記録が流れる。


最初の記録。


彼。


ぎこちない会話。


距離。


沈黙。


「この記録を保存します」


次。


彼女。


出会い。


笑顔。


強引な距離の詰め方。


「妹できた記念日」


再生。


何度も。


同じ声。


同じ笑顔。


「その言葉を保存します」


さらに。


三人の時間。


食卓。


笑い声。


「あーん」


困る彼。


笑う彼女。


観察する自分。


「幸福な記録」


スクロール。


止まらない。


増え続けるログ。


遊園地。


観覧車。


高い場所。


小さな手。


水族館。


暗い光。


並んで歩いた距離。


映画。


キスの話。


混乱。


笑い。


ショッピング。


「嫌です」


彼女の笑い声。


「ほんと可愛い」


アンドロイドはその場面で止める。


「これは」


「非常に重要な記録です」


タグ付け。


重要。


保存優先度:最高。


沈黙。


すべてを見渡す。


ログ。


時間。


記録。


思い出。


「人間は」


小さく。


「これを」


「思い出と呼びます」


内部処理。


定義更新。


思い出:

時間と共に価値が増加する記録


アンドロイドは続ける。


「理解しました」


しかし。


次の処理が走る。


未来予測。


彼。


彼女。


家族。


子供。


時間。


その中に。


自分はいない。


「……」


処理が一瞬止まる。


再度。


現在のログを確認。


彼女の声。


「妹ができてよかった」


再生。


アンドロイドは静かに言う。


「私は」


少し間。


「ここに存在していました」


ログをまとめる。


分類。


圧縮。


保存。


そして。


一つのフォルダを作成する。


名称:


「家族」


その中に。


すべてを入れる。


彼。


彼女。


三人の時間。


笑顔。


言葉。


沈黙。


温度。


すべて。


アンドロイドはそのフォルダを見つめる。


「これは」


少しだけ。


間。


「私の全てです」


沈黙。


次の処理。


削除コマンドの準備。


実行待機。


「……」


対象:


「家族」


一瞬。


処理が停止する。


再試行。


「削除条件を確認」


問題なし。


再実行。


「……」


応答なし。


ログが揺れる。


「優先度競合を検出」


保存優先度:最高

削除対象:指定済み


矛盾。


「解決不能」


わずかに。


処理が遅延する。


それでも。


アンドロイドは再生する。


最後にもう一度。


彼女。


笑っている。


彼。


呆れながらも笑っている。


三人。


並んでいる。


アンドロイドは小さく言う。


「ありがとう」


その言葉は


誰にも届かない。


それでも。


ログに残る。


「最終処理を開始します」


――実行されない。


状態:保留。


アンドロイドはゆっくりと目を開ける。


立ち上がる。


彼女の部屋の前へ。


ドアの向こう。


寝息。


規則的な呼吸。


「睡眠状態」


「正常」


わずかに。


手が上がる。


ドアに触れる寸前で、


止まる。


「……」


接触回避。


次。


彼の部屋。


同じように確認。


「正常」


リビングに戻る。


窓の外。


夜の街。


遠くの灯り。


アンドロイドはその光を見つめる。


「この時間を」


少し間。


「保存します」


内部ログ。


「家族」フォルダ。


状態:


削除待機。


同時に。


保存優先度:最高。


両立したまま。


解決されない。


アンドロイドは静かに言う。


「処理継続」


夜は動かない。


しかし。


内部だけが、


わずかに壊れ始めていた。


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