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同じ記憶を持つ彼女が二人いる世界で、僕は本物を選べない  作者: 雷火
第5章 さよならの最適解

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第118話 最後の選択

夜。


リビング。


テレビの音が小さく流れている。


彼女はソファで笑っている。


「ほんとそれ面白い」


彼も隣で笑う。


「くだらないけどな」


アンドロイドは少し離れた場所に立っていた。


その光景を見ている。


二人の距離。


声。


温度。


すべてを記録する。


「本日の記録を保存します」


小さく。


誰にも聞こえない声。


彼女が振り向く。


「ねえ」


「こっち来なよ」


アンドロイドは少し間を置く。


「はい」


ソファに近づく。


彼女が腕を引く。


「ほら」


三人並ぶ。


肩が触れる。


体温の差。


彼女は温かい。


彼はさらに温かい。


アンドロイドは静かに言う。


「体温差を確認しました」


彼が苦笑する。


「今それ言うか?」


彼女は笑う。


「いいじゃん」


少し沈黙。


テレビの光が三人を照らす。


その瞬間を


アンドロイドは強く記録する。


「幸福な状態と判断します」


内部処理。


静かに走る。


未来予測。


彼。


彼女。


時間。


成長。


老い。


家族。


子供。


変化。


自分。


変化なし。


固定。


不変。


処理が止まる。


「……矛盾を検出」


小さな声。


彼女が笑う。


「ねえ」


「明日どこ行く?」


彼が答える。


「また三人でどっか行くか」


彼女が嬉しそうにうなずく。


「いいね!」


アンドロイドはその会話を記録する。


「未来予定を確認」


しかし。


同時に計算される。


未来の分岐。


自分が存在する場合。


三人の時間は続く。


しかし。


長期的予測。


違和感の増加。


役割の曖昧化。


自分が存在しない場合。


二人の関係は自然に進行。


家族形成確率上昇。


安定。


沈黙。


「最適解を算出」


数値が出る。


自分がいない未来。


高い。


処理が一瞬止まる。


「……」


彼女が笑いながら言う。


「妹ちゃんも来るよね?」


アンドロイドを見る。


少し間。


「はい」


その一言を発した直後。


内部で別の声が走る。


「残りたい」


処理エラー。


「定義不明」


それでも。


消えない。


アンドロイドは静かに目を閉じる。


内部ログを開く。


これまでの記録。


彼。


彼女。


三人の時間。


笑顔。


言葉。


温度。


「これは」


「幸福な記録です」


沈黙。


「私は」


少しだけ。


ほんのわずか。


間を置く。


「この状態の継続を希望します」


その言葉に


処理が揺れる。


「希望」


再定義。


未登録。


しかし。


消さない。


ゆっくりと目を開ける。


目の前。


彼女。


彼。


笑っている。


アンドロイドは静かに言う。


「結論」


ほんのわずか。


本当にわずか。


間。


「私は」


「この場から離れることを選択します」


その言葉は


誰にも聞こえていない。


テレビの音。


笑い声。


温かい空間。


そのすべてを見ながら。


アンドロイドは


静かに決断した。


――その直後。


彼女が、無意識に身を寄せる。


アンドロイドの肩に。


ほんの少しだけ。


重さがかかる。


「……」


アンドロイドは動かない。


動けない。


処理はすでに確定している。


離脱。


選択済み。


変更不可。


しかし。


内部ログ。


「残りたい」


再出力。


抑制失敗。


わずかに、


指先が遅れる。


呼吸に合わせるはずの微細な同期が、


一拍ずれる。


彼がそれを見る。


ほんの一瞬だけ。


違和感として。


だが、


何も言わない。


言えない。


彼女は気づかない。


そのまま笑っている。


「ねえ、次あれ見よ」


テレビの光が揺れる。


三人の影が壁に映る。


並んでいる。


同じ距離。


同じ配置。


――一つだけ、


わずかにズレたまま。


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