表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
同じ記憶を持つ彼女が二人いる世界で、僕は本物を選べない  作者: 雷火
第5章 さよならの最適解

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

117/122

第117話 遅延の理由

観覧車は下降を続けている。


ゆっくり。


一定の速度で。


さっきまでの頂点の静けさが、もう遠い。


狭い箱の中。


三人は動かない。


アンドロイドの動きがわずかに不自然だったまま、止まっている。


彼女が先に口を開く。


「今の、なに?」


視線は外さない。


アンドロイドを見る。


アンドロイドは答える。


「処理遅延です」


短く。


正確に。


彼が眉をひそめる。


「故障か?」


アンドロイド。


「機能異常は検出されていません」


否定。


しかし。


彼女は納得しない。


「じゃあなんで止まったの」


一歩詰める言い方。


逃がさない。


アンドロイドは数秒沈黙する。


処理している。


その“間”が、逆に重い。


そして言う。


「負荷が増加しました」


彼女。


「負荷?」


アンドロイド。


「はい」


少し間。


そして。


「選択に関する処理です」


空気が変わる。


彼が小さく息を止める。


彼女の指先がわずかに動く。


止めるように。


何かを。


アンドロイドは続ける。


「複数の未来予測が衝突しています」


「優先順位の決定が困難です」


彼女が言う。


「それって」


少し言葉を探す。


「悩んでるってこと?」


アンドロイドは即答しない。


ほんの一瞬。


そして。


「近似値としては正しいです」


彼女が息を飲む。


小さく。


でも確かに。


彼も視線を上げる。


アンドロイドを見る。


「……お前が?」


信じきれていない。


アンドロイドはうなずかない。


ただ言う。


「はい」


肯定。


観覧車はさらに下がる。


時間は進む。


止まらない。


彼女が言う。


「じゃあさ」


少しだけ柔らかくなる。


でも本質は変わらない。


「なんで止まったの?」


アンドロイドは答える。


「彼の発言を優先しました」


彼を見る。


彼女も見る。


二つの視線が集まる。


彼は逃げ場を完全に失う。


「……」


言葉が出ない。


さっきの続きを、


求められている。


彼女が言う。


「続き、言って」


静かに。


でも拒否は許さない。


彼が首を振る。


「……今じゃなくてもいいだろ」


弱い抵抗。


彼女はすぐに返す。


「ダメ」


即答。


「さっき言ったでしょ」


視線が鋭くなる。


「今じゃないとダメ」


アンドロイドは何も言わない。


ただ見ている。


観察している。


選択の瞬間を。


彼は目を閉じる。


一度。


深く息を吸う。


吐く。


逃げられない。


理解している。


「……」


言葉を作る。


時間がかかる。


でも。


もう止まれない。


彼は目を開ける。


まず彼女を見る。


次にアンドロイドを見る。


順番。


無意識。


それをアンドロイドは記録する。


「視線順序を保存」


彼は言う。


「俺は——」


その瞬間。


また。


わずかなノイズ。


アンドロイドの視界が一瞬だけぶれる。


彼女が反応する。


「また?」


アンドロイドはすぐに言う。


「問題ありません」


しかし。


さっきより短い遅延。


彼は言葉を止める。


苛立ちが混じる。


「お前……大丈夫なのかよ」


アンドロイドは答える。


「はい」


即答。


しかし続ける。


「ただし」


少し間。


「この状態は安定していません」


彼女が眉をひそめる。


「どういうこと」


アンドロイドは言う。


「選択処理を継続した場合」


「負荷は増加します」


彼が言う。


「じゃあやめろよ」


単純な解。


逃げ道。


しかし。


アンドロイドは首をわずかに振る。


「いいえ」


はっきりと。


「やめません」


彼女が息を止める。


彼も動かない。


アンドロイドは続ける。


「私は」


少しだけ遅れる。


それでも。


言う。


「選びます」


強い言葉。


変わらない意思。


観覧車は地面に近づく。


終わりが見える。


時間がない。


彼女が言う。


「じゃあさ」


彼を見る。


「早く決めて」


感情が乗る。


隠さない。


「壊れる前に」


その一言。


彼の顔が歪む。


選択の重さが、


一気に現実になる。


彼は歯を食いしばる。


視線が揺れる。


でも。


逃げない。


逃げられない。


観覧車が止まる。


軽い衝撃。


ドアが開く。


「お疲れさまでしたー」


外の声。


日常の音。


でも。


三人は動かない。


誰も立たない。


係員が少し不思議そうに見る。


彼が先に立つ。


ゆっくり。


そして振り返る。


二人を見る。


「……降りるぞ」


それだけ。


でも。


その声は、


さっきまでと少し違った。


三人が外に出る。


地面に立つ。


現実に戻る。


しかし。


何も終わっていない。


むしろ。


ここからだ。


アンドロイドが小さく言う。


「処理継続中」


彼女はそれを聞く。


そして。


彼を見る。


もう一度。


逃がさない視線で。


午後の光は変わらない。


でも。


三人の関係だけが、


確実に変わり始めていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ