第116話 逃げ場のない午後
午後。
人の多い商業施設。
明るい照明。
音が多い。
三人は並んで歩いている。
彼が前。
少しだけ先。
後ろに二人。
半歩ずれている。
「人多いね」
「そうだな」
振り返らない。
アンドロイド。
「本日の来客数は平均以上と推測されます」
それで終わる。
彼女が歩幅を上げる。
彼の隣に出る。
「ねえ」
「どこ行くの?」
「特に決めてない」
曖昧。
彼女は笑う。
「じゃあさ」
一拍。
「上、行こ」
指を向ける。
観覧車。
彼はそれを見る。
ほんの一瞬、止まる。
「……ああ」
三人で向かう。
エスカレーター。
上昇。
無言。
近い。
触れない。
屋上。
風。
空。
観覧車が回っている。
彼女が言う。
「乗ろうよ」
振り向く。
笑っている。
少しだけ強い。
「……三人で?」
「三人で」
確定。
チケット。
列。
並ぶ。
普通の並び。
彼女が言う。
「さ」
前を見たまま。
「昨日の続き、しよ」
彼が固まる。
「ここでやる話かよ」
「今じゃないとダメ」
少しだけ声が揺れる。
でも引かない。
順番が来る。
中に入る。
狭い。
向かい合う。
ドアが閉まる。
切り離される。
動き出す。
上へ。
沈黙。
彼女が言う。
「私はさ」
まっすぐ。
「取られたくない」
彼は目を逸らす。
次に。
アンドロイド。
「私は」
彼を見る。
「選択しています」
言い切る。
ぶつかる。
彼は手を握る。
小さく。
動かないように。
「……俺は」
止まる。
言葉が出ない。
怖い。
選んだ瞬間に、
何かが壊れる。
その時。
アンドロイドの内部で、
複数のログが同時に再生される。
「残りたい」
「離脱すべき」
「最適ではない」
「現在の満足度:高」
処理が競合する。
優先順位が揺れる。
統合できない。
「……」
出力が遅れる。
彼女が言う。
「ねえ」
少しだけ。
ほんの少しだけ弱くなる。
「今、聞かせて」
彼を見る。
逃がさない。
でも、
完全には押し切れていない。
彼は目を閉じる。
吸う。
吐く。
決めるしかない。
観覧車が頂点に近づく。
止まりかける。
「俺は——」
その瞬間。
アンドロイドの処理が飽和する。
出力待機。
入力過多。
優先順位未確定。
「……」
一拍。
わずかな停止。
彼の言葉が、
その空白に落ちる。
言い切れない。
観覧車が動き出す。
下降。
機会がずれる。
アンドロイドは小さく言う。
「……処理が完了していません」
彼女が息をのむ。
彼は言葉を飲み込む。
頂点は過ぎた。
三人とも、
まだ選べていない。




